すでに作家としてスタートを切っている方々に、作家生活についてのさまざまなお話を聞く「ネオページ・インタビュー」。
今回は、ありふれた日々の中にある面白さを描き続ける「白金将」さんにお話を伺いました。
——まず、自己紹介をお願い致します。
白金 将 こんにちは、しろがねです。昨年から「ココナラ」「SKIMA」などのスキルマーケットのサービスで執筆依頼を開けている者です。これまで様々なジャンルの小説を書いてきました。「小説家になろう」「カクヨム」で長編小説を執筆したり、pixivに二次創作小説を投稿したりと、人生の半分を執筆と共に過ごしてきた感覚があります。
最近は「魔女」という題材に傾倒しています。設定厨なので、魔女に関する本を様々買い集めて彼女たちの歴史や在り方について造詣を深めている最中です。インプットがてら魔女のゲームもプレイしていますね。先日「ルフランの地下迷宮と魔女ノ旅団」を最後までプレイした際にそのストーリーで衝撃を食らって危うく筆を折りかけました。ぜってぇにゆるさねぇからな泉達也。(オタク特有の誇張表現)
——小説家を目指すことになったきっかけや背景について教えていただけますか?
白金 将 中学生になる前辺りからずっと、私は姉が欲しいと思っていました(今もそうです)。当時の私は「姉がいない」という現実に耐えられず(今もそうです)、そのフラストレーションを発散する手段を創作の世界へ求めました。僕がライトノベルというものに初めて触れたのもそれから少し経った頃だと思います。
当時、2010年あたりはライトノベルの全盛期とも呼べる時期です。しかし同時に「ヒロインは同い年か年下」という風潮が蔓延っていた時期でした。当時の作品として象徴的なのが「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」でしょう。ラノベは本屋の棚を幾つも染める程あったのに、そこに自分が読みたい話はただの一冊さえも無い……コレが私の原体験となりました。
幸いだったのは、私が子供の頃からPCに触らせてもらえたことです。インターネットの海に潜った私は「世間の姉小説」の少なさに愕然とすると、当時の2chSS格納庫にあった姉SSを全部読み漁り、恐らく姉にまつわる文字のほぼ全てに目を通しました。しかし、それでも収まりがつかなくなって……なければ自分で作る、と「白金 将」が生まれます。やがて、姉に限らず年上ヒロイン・大人の女性ヒロインにも執着するようになりました。
——執筆活動で影響を受けた作家や作品、そしてそれがご自身の作品にどのような影響を与えたかについて教えてください。
白金 将 僕は「ないから作る」で書き始めた人ということもあって、他の作家さんから影響を受けたかと聞かれても「コレ」といった書籍を挙げることができません。読まないこともないんですが……実は、創作活動における刺激の多くはゲーム(実況含む)や音楽から得ています。
中学・高校時代はニコニコ動画で「訛り実況」に嵌っていました。「零」シリーズや「サイレントヒル」シリーズ、「クーロンズゲート」「ILLBLEED」「クロックタワー3」といった名作・クセの強い怪作たちに触れたことを覚えています。実況以外で、自分でプレイしたものでは「ぼくのなつやすみ2」「FF12」「スーパーペーパーマリオ」「スーパーマリオギャラクシー」「El Shaddai」などがあったかな……?
大学時代は「NieR:Automata」を前情報無しプレイして見事に口から泡を吹きました。ぜってぇゆるさねぇからなヨコオタロウ。「DEATH STRANDING」では綿密に組まれた設定と卓越した人物描写の数々に唸らされて愛の素晴らしさを知りました。ぜってぇゆるさねぇからなピーター・アングレール。「神獄塔メアリスケルター2」では運命に抗う少女らの姿に涙しました。ぜってぇゆるさねぇからなコンパイルハート。「ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF RUBICON」では…………ぜってぇゆるさねぇからなFROM SOFTWARE。冒頭で述べた「ルフランの地下迷宮と魔女ノ旅団」もここに並びます。まじでゆるさねぇからな泉達也。
これらの作品に触れていく中でいつしか、「これと並ぶ凄い作品を書いてみせる、同じ人間だから俺にもできるはずだ」と言う思いが芽生えていった気はします。
——これまでに書かれた作品数と、特におすすめの作品及びその理由を教えてください。
白金 将 書いてきた作品数はいくつだろう? 「小説家になろう」「カクヨム」「pixiv」にアップしていたものの他に上げてない話がそれはもう沢山あります。最近はお仕事で依頼小説を書いていて、それだけでも合計百万字以上は堅いですね。
今、この場で特におすすめの作品でしたら……二作ピックアップします。
まずは過去作である「ウィッチクラフト・ハンバーガー・ゲーム」。
これは、自分が魔女であることを隠している女性であるヴァネッサが、一目惚れした女騎士の心を奪うために「惚れ薬」を仕込もうと城下町でハンバーガーショップを開いて偽装生活を送る話です。魔女と女騎士の間にはただならぬ因縁があり、更には店で雇った少女がなかなか訳ありで……という風にして物語が展開されていきます。
オススメ理由としては、創作における好きな物をこれでもかと詰め込んだものになるからです。私は「強い女性キャラ」が好きで、そういう彼女たちが水面下でぶつかり合う話を書こうと思っていました。あと、かわいそうな女の子と、百合とジャンクフードが好きですね。読んで後悔はさせない渾身の一作ですが、深夜に読んだら、ハンバーガーを食べたくなってグギギと歯ぎしりすることにはなるかも……
もう一つは、現在更新中の「魔女ラヴェンナの退屈で素晴らしい余生の日々」。
これは、かつて最強と呼ばれた「幻想の大魔女」ラヴェンナが、田舎の村の魔女小屋でのんびりとした暮らしを送る日常系の物語です。疲れている時でもサクッと読んでニヤッと笑える1話完結のお話を目指しました。
オススメ理由は、「僕が読みたい小説」を突き詰めて作った物語だからですね。魔女のお姉さんが田舎の集落で隠居してる日常を覗いてみたかったんですよ。他の話だとここに大きな面倒事が転がり込んできて最終的に無双……とかありそうですが、自分はそうじゃない「魔女としての日常」と、そこに隠れてるクスッとくる出来事を見たかったんです。また、同じものを求めてる読者も絶対にいると思いました。いてください。
——自作の魅力はどこにあると思いますか?
白金 将 「落ち着いた文体」「愛のある描写」の二つでしょうか。
文体に関しては逆に、勢いある文を書くのにまだ自分が慣れていないことも理由です。また、この前「幼年期の終わり」を読んだのですが、情報を一個ずつ淡々と並べて粛々と物語を進めながらも大事な場面ではしっかり熱を込める……という書き方が非常に参考になりました。僕にとってはあれが結構ピッタリ合っていた気がしたのです。しかし、流石にあれをそのまま再現できたところで多くの読者には堅すぎるとも思っています。執筆の際は、作品が広く受け入れられるよう色々気を遣ってますね。
「愛のある描写」ですが……私は小説の中に、優しさで満ちた理想の世界を求めています。だから執筆の際も、何かしらの効果を狙った時でも無い限りは乱暴な言葉を用いないようにしています。特に、「魔女ラヴェンナの退屈で素晴らしい余生の日々」では様々なところからその気配を窺えるのではないでしょうか。
——今回『ネオページ』で連載されている作品は、スタイルが非常にユニークですが、このような作品を創作することにした理由は何ですか?
白金 将 ユニーク……うん、確かにあんまり見ないスタイルですね。(もっと増えて欲しいんですけど)
この作品ができた理由としては、「自分が読んで面白い&読み続けたいと思える作品を作る」から始まったことが挙げられると思います。契約作家になった以上、話としての面白さは担保しなければならないと考え、その為にも自分が心から面白いと思えるものを題材とするのが最善と考えました。
まず、自分が何を面白いと思うのか、何を求めているのかを自己分析しました。
「面白い」にも種類があります。滑稽でおもしろおかしいfunny、ドキドキワクワクするexcitingなどがあるでしょう。その中でも私が最も重視していると感じたのが「興味深いinteresting」です。
私は学生時代によく「ディスカバリーチャンネル」を見ていました。今もYouTubeで「Kənd həyatı」「The Green Witch」「週末縄文人」「うごめ紀」「ためにならない‼」「赤島食堂」などを見て、様々な知識・見解・発見を貰っています。知らなかったことを知る、他の人の人生に触れることが好きだったのです。皆さんも、旅行先で地元民らしき方とすれ違った時、この人は毎日どんな暮らしをしているんだろうと考えたことはありませんか?
今回、作品制作ではinterestingな要素を多く含ませた上でfunnyな要素を添加し、私好みに仕上げながらも他人へ受け入れられやすくなるようデザインしました。
また、私は大学時代にメンタルを崩した経験があります。気力ゼロかつ、眠るのも怖くなってしまう日に「ゆるキャン△」season1を何周もしていました。
その辺りからか、過度にハラハラする展開、ヘイトを抱かせる展開、キャラクターの仲がすれ違いで険悪になる展開が苦手になっていたようです。先程の分類で言えば、物語にexcitingな要素を求めなくなっていました。(面白いと思わない訳では無いですが……)
今作はそういった内容は含めないつもりです。入れたとしてもコメディの皮で包んだり味を誤魔化したりして、終始楽しい気持ちで読めるように心がけています。一番メンタルがヤバかった時の自分でも読めるか、というのは一つの基準になってますね。
あと……「自分が他の作品を読んでいる最中に引っかかったこと」はしないよう気をつけています。スローライフと言ったのにスローライフしなくなったり、その地点では逆立ちしても知り得ない知識を使ったり、過度に周りの人物に頭を下げさせたり、精神年齢と知識・経験が見合ってなかったり、上の立場の人間にタメ口したり……自分が書いてて納得できるように書こう、と心がけてます。
——今回の作品で、読者に特に注目してほしい点は何ですか?あるいは、この作品を通じて、読者にどのような感情やメッセージを伝えたいですか?
白金 将 作品を通じて伝えたいもの……日常は、何か劇的なイベントが無くとも面白くなり得ると言うことでしょうか。すべてのエピソードで何かしらの祭りが行われる必要はなく、強大なエネミーを討伐する必要もありません。新しい料理を発明する必要もなければ、必ずしも大きな進歩を成し遂げる必要はないということです。
日常を観察すると、各所に小さなイベントが隠れていることに気付きます。それからでも物語は広げられると思います。すごろくで「一つ進む」が付きそうな良いことを大切にする、そんな価値観が伝わればという感じでしょうか?
——執筆に対する情熱が途切れそうになったことはありますか?もしあれば、どのように自分を励まして乗り越えましたか?
白金 将 情熱が切れたことはありませんが……かと言ってやる気十二分の無敵状態になったことも最近はありません。常にやる気60~70%くらいの状態ですね。去年からは仕事で小説を書いていたので、どこかのタイミングでそう最適化されたのだと思います。
集中力が続かなくなった時は、ZONe ENERGYを飲んだり、可能であれば寝ています。最近はタンパク質と食物繊維を意識的に摂るようにし、ヨーグルトも食べるよう心がけています。秋田県民らしく寒天も作り始めましたね。
本当に疲れた時は、神椿スタジオ所属のバーチャルシンガー、理芽ちゃんの歌声に癒されています。「ルフラン feat. 笹川真生」とか「さみしいひと」とか、LOLUETさんの「ハネムーン」とか……
——執筆中で最も楽しい瞬間はいつですか?
白金 将 本文の執筆中がとても楽しいですね。文章の一つ一つを美しく練り上げていく過程が好きです。どうしても急がなきゃいけない時はそんな余裕もありませんが……
——長編作品を執筆する際に最も挑戦的だと感じることは何ですか?その際にどのような対策を取っていますか?
白金 将 作品の簡単な構想を決めた後、これから書き始めるぞ、と覚悟を決める瞬間です。
私は執筆を通してお金を貰っている身なので、どうしても新作を書く時には「これでどれくらいのリターンが得られるか」を労力と天秤にかけてしまいます。(これは癖のようなもので、全ての作品制作で利益を求めたいわけではありません)
長編小説は執筆の際に莫大な時間と労力を割くことになります。そして一度作り始めた後は大幅な軌道修正が難しくなります。構想段階のうちに見つけられる懸念点を改善するためにも、可能であれば、事前に最終話までのプロットを作り込んで流れをしっかり確認してから書き始めることにしていました。「ウィッチクラフト・ハンバーガー・ゲーム」はまさにそのやり方で作られた作品ですね。
——日常生活と執筆活動のバランスをどのように取っていますか?一日にどのくらいの時間を執筆に充てていますか?
白金 将 専業作家なので、飯食って寝る以外の時間はほぼ全て作業時間に充てています。もう執筆が日常になっていますね。逆に書いてないとね、足元が少しずつ崩れていく感覚がするんですよ。ただし、家族の手伝いは出来る限りするようにしています。
——周囲に執筆活動を支えてくれる、または応援してくれる人はいますか?
白金 将 同居している家族は今のところ容認してくれており、関わる友人からも肯定的な意見やサポートを貰っています。本当にありがたいことです。少しでも早く恩返しができるように、今できることを着実にこなしていこうと思います。
——作品を読んで応援してくれるファンに向けてどのような言葉を贈りたいですか?
白金 将 どんなに良い作品を書けたとしても、そこに読者がいなければ評価を得ることはできません。ですので、自作を読んでいただける方の存在には本当に助けられています。感謝の気持ちを伝えると共に、これからも末永いお付き合いをお願いできればと思います。絶対に後悔させませんので。
——今後どのような作品を書いていきたいと考えていますか?
白金 将 面白い作品、というのは前提として、今まで小説をあまり読んでこなかった人、ネット小説の文化に触れてこなかった人でも面白いと思ってもらえる作品を書きたいですね。文字媒体で物語を楽しむ人が増えれば小説界隈はもっと賑やかになりますし、言葉を嗜む人で溢れた世界は今よりももっと良くなるのではと思います。(私のような仕事をしている人たちの食い扶持も増えますし……)
——小説家としてのキャリアで達成したい目標や夢について教えていただけますか?
白金 将 まずは本を出したいですが、果たしていつになることやら。私のことを知らない人から「今何してんの?」と聞かれた時に「作家だよ、これを書いてるんだ」と自著を紹介できるようになりたいですね。今の自分の仕事は、他人に説明するのがちょっと大変なので……
あと、贅沢な夢ではありますが、私の作品のキャラクターが漫画やアニメになっている姿も見たいですね。願わくばそれをきっかけに「大人の女性ヒロイン」の良さに気付く人たちが増えてくれれば、という野望も添えて。
また、私は執筆以外の労働がどうも他人より苦手らしいので、このままずっと執筆を通して社会に貢献できればとも考えてます。
——「ネオページ」に対してどのような期待を抱いていますか?
白金 将 まずはサービス自体が末永く続いていくことを願っています。その上で、作家が安心して自分の「面白い」を追求できる場所にしていただければと思います。ランキングを駆け上がるための作品作りを否定するわけではありませんが、僕はやっぱり、作者が「コレが面白いんだよ、食らえっ!」と愛と情熱と狂気を注いだ唯一無二の剛速球に唸りたいですね。
「ネオページ」では執筆活動をするために様々な支援があると聞いています。個人的な理想ですが、これらの支援が「作家による作品の面白さの追求」へ繋がればと思います。
書いたものに対して確実に対価を得られる環境であれば、これで絶対にランキング上位を獲って結果に繋げなければならない――などと張り詰める必要もありませんし、他人からの評価を過度に気にする必要もありません。多くの作家が「サバイバルモード」から脱却し、自分の面白いを貫き通せるようになることを切に願っています。
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白金 将 異世界ファンタジー | スローライフ 連載中·11話·35,272文字 最初から読む