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2022年5月

2022年5月。年を跨ぎ、ようやく就職活動に終止符が打たれた。有名企業からの内定通知が届いたのだ。正直、自分がそんな会社に内定をもらえるなんて思ってもいなかった。エントリーシートに何度も跳ね返され、面接で落ち込んだ日々を思い返すと、喜びと安堵が入り混じり、自然と笑みがこぼれた。努力が報われた、そんな気持ちだった。

プライベートでも、小さな幸せが訪れた。

結果的に、『親友の彼女』とも『彼女の親友』とも良い友達関係を築くことができ、3人で遊びに行く予定ができた。もちろん、『親友』にも声をかけたようだが、彼は『彼女の親友』と面識が無かったため、断った。つまり、いつもどこか「脇役」だと思っていた僕が、今回は選ばれたのだ。誰かに「選ばれる」というのは、こんなにも嬉しいものなのか。それを初めて知った瞬間だった。




当日。約束の時間が過ぎても、『親友の彼女』と『彼女の親友』はやってこない。少し遅れているのかなと思いながら、スマホを何度も確認する。それでも連絡はない。時計の針だけが進む中、ふとラインを開いた瞬間、通知音が鳴った。『親友の彼女』からのメッセージだった。


「ごめん! 寝間違えちゃって……そのせいで首が痛くて、今『彼女の親友』と病院にいるの」


短い文章からでも、彼女の焦りと申し訳なさが伝わってきた。僕は心配しつつも、一気に湧き上がる落胆を抑え込むのに必死だった。返信画面を見つめながら、「大丈夫?」という言葉を打つまで、なぜか時間がかかった。


「大変だったね。無理しないでね。いつかまた行こう。」


そう返信しながら、心の奥で浮かれていた自分を呪った。「選ばれる」という経験に舞い上がった自分を、情けなく思った。

純粋に不安もあった。『親友の彼女』が病院に運ばれるほどの状態だったのだから、それが心配でないはずがない。でも、それ以上に胸を締めつけたのは、「やっぱり僕は、また選ばれなかったんだ」という思いだった。せっかく訪れたかもしれない新しい扉が、また音を立てて閉ざされるような感覚。浮かれていた自分が恥ずかしくて仕方なかった。

その夜、帰りの電車で窓の外を眺めながら、僕はただ静かに目を閉じた。「いつかまた行こう」という言葉が、空虚に響いていた。


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