2021年9月。コロナ禍の影響が続く中で、オリンピックは開催された。しかし、僕には関係ない話だった。スポーツの世界ではコロナも特別扱いらしいけど、僕の世界ではそうはいかない。
大学3年の夏。就職活動が本格化し、インターンシップの波が押し寄せてくる。いい会社に入るには、今から動かないといけない。だけど、オンラインばかりの作業には正直うんざりしていた。部屋に閉じこもる日々は、息が詰まる。
そんなある日、高校時代の『親友』から突然連絡が来た。彼は相変わらず自由奔放な奴だ。大学進学を目指していたのに、いつの間にか「ドラマーになる」と言い出して、その後は自堕落な生活を送っているらしい。僕とは正反対の生き方だけど、だからこそ面白く感じる。
その『親友』が言うには、オンラインで欧州サッカーの試合を一緒に見ようという話だった。ちょうど暇だったし、いい気分転換になるかもしれない。明日の朝一にはインターンシップが控えているけど、0時までに寝れば問題ない。僕はその誘いを快諾し、ズームで彼と繋がった。
画面に映った『親友』は、相変わらずだらしない姿だった。高校時代から全然変わっていない。だけど、画面越しに違う気配を感じた。画面の外から、可愛らしい笑い声が聞こえてくる。
「そうか、これが『親友の彼女』か」と僕は気づいた。数年前から付き合っていることは知っていたけど、特に興味はなかった。ただ、その声が妙に魅力的に感じられたのは事実だ。『親友』は昔からモテる。きっと素敵な彼女なんだろう。そんなことを考えながら、僕たちはサッカー観戦を始めた。
とっくに試合は終わっていた。画面の向こうで、『親友』はもう興味を失ったようにゲームを始めている。それなのに、僕はなぜズームを切らないのだろう。
いつの間にか、『親友の彼女』と2人で話していた。彼女はすっぴんのため、カメラには映らないようにしている。また話題も大したことではない。趣味や日常の些細な出来事。でも、不思議と彼女の話す言葉が耳に心地よく感じられる。その表現力や話し方は、どこか引き込まれるものがあった。いや、違う。僕が彼女を魅力的に感じていたからこそ、そう思っただけなのかもしれない。
もっと話を聞いていたい。だが、彼女が『親友の彼女』であることを僕は知っている。罪悪感が心の隅をチクリと刺す。でも、画面越しだからと自分に言い訳をして、その感覚をかき消そうとする。
気がつけば、時計の針は0時を回っていた。魔法のような時間が、いつの間にか終わりを告げていた。