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第2話 写ったもの

 「わー、お父さん広いね! 部屋が3つもあるよ!」


 たしか、あのときの私は新しい家に心からはしゃいでいた。


 「そうだろう、そうだろう! あとで鈴と門音の部屋も作らないとな!」

 「お父さん、まだ二人とも小さいんですから、寝るときはみんな一緒ですよ?それより……ここ、少しじめっとしてません?」

 「そうか? まぁ、あとで除湿機でも買ってくるか」


 父と母がそんな会話をしていたのを覚えている。

 私たちが引っ越した先は、ピンク色の外壁が目印のアパートだった。

 そのすぐ前には大きな公園、そして公園の脇には水道施設と、その先に深い森が広がっていた。


 「さーて、引っ越し記念に家族写真でも撮るか!」

 「わーい! いっぱい撮ろう!」


 父の提案に、私は元気いっぱいに応えた。


 「はい、お父さん。このカメラでいいですか?」

 「お、さすがお母さん。頼む前に準備してくれるなんて、さすが俺の嫁!」

 「おだてても何も出ませんよ?」

 「お父さん、お母さん、門音も写真撮りたいって!」


 まだ門音は上手に話せなかったが、にこにこと嬉しそうな顔をしていた。


 「よーし、じゃあ撮るぞ! はい、チーズ!」


 ——パシャ。


 シャッター音が、静かに部屋に響いた。

 この頃はまだ、カメラもネットにはつながっておらず、写真はカメラ屋さんで現像してもらう時代だった。


 数日後。私が門音と遊んでいると、父と母の話し声が耳に入ってきた。


 「母さん、これ見てくれ」


 父が数枚の写真を母に手渡していた。


 「これが、どうかしましたか?」


 そのとき、父の表情が少し険しくなっていたのを覚えている。


 「写真の隅に……白い、丸いものが3つぐらい写ってないか?」


 そんな父の言葉に、母はくすりと笑った。


 「ふふっ、お父さん。まさか、お化けでも怖がってるんですか? これは光の加減ですよ」


 「そうか……考えすぎだよな。悪い、悪い!」


 そう言って、父はいつもの明るい表情を取り戻した。


 ——たぶん、ここから始まっていったのだと思う。

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