胸がムカムカして、吐き気が込み上げる。叫び出したい衝動を必死に抑え、カサンドラは乱れた呼吸を整えていた。
そのとき――耳に『ギィイイッ』と、耳障りな金属音が響く。
驚いて夜空を見上げた彼女の目に飛び込んできたのは、ついさっきまで広がっていた満天の星ではなかった。
そこには、夕暮れに染まった王都と、錆びついた断頭台。しかも今度は傍観者ではない。カサンドラ自身が煤けた囚人服をまとい、手枷と足枷をつけて、そこに立っていた。
(……なに、これ?)
「足を止めるな、さっさと行け!」
斧を手にした騎士に背中を押され、鎧の兵たちに囲まれながら、カサンドラは状況が飲み込めないまま、広場へと連れて行かれる。
大聖女マリアンヌの銅像が見下ろすその場所には、ギロチンが待っていた。その側の高台からは、アサルト皇太子と――妹のシャリィが、冷たい視線を注いでいる。
カサンドラの身体は乱暴に、断頭台へと押しつけられ、首を収められた。もう、逃げ場はない。
一人の騎士が前に出て、胸に手を当て、声を張る。
「ただいまより、罪人カサンドラの刑を執行する!」
その声に合わせ、皇太子アサルトが無言で手を上げる。……合図だ。カサンドラが最後に見上げた視線の先、高台に座るシャリィが――嗜虐的な笑みを浮かべていた。
(シャリィ……!?)
自分は罠にかけられたと悟った瞬間、カサンドラの胸に激しい憎悪がこみ上げる。
だが――思い出す。過去、自分がシャリィにした仕打ちを。アサルト様を取られた嫉妬から、妹に意地悪ばかりしてきたことを。なにより、自分よりも妹の方がずっと聡く、賢かったという事実を。
――いや、いやぁ、なんでこうなるのよ……!
ギシ、ギシと死の足音が迫る中、カサンドラは喉の奥から絞り出すように叫ぶ。
(マリアンヌ様……どうか、お願い……! やり直せるなら、こんなことには――!)
祈りと同時に、ギロチンの刃が音を立てて落ちてきた。
「ヒィイイイッ――!!」
言葉にならない恐怖――そして、視界が闇に包まれると、ゴロリと何かが地面に転がった音。
(わ、私の……く、首……!? いやぁ……私の首が……! ……あれ? ある……? 繋がってる!?)
カサンドラは慌てて自分の首を両手でまさぐり、無事にくっついていることに気づく。荒い息を整え、恐る恐る顔を上げた。
目の前には、星降る王城の庭園。
――さっきまでの処刑場は、跡形もない。
(なにが……どうなってるの……?)
ドレスの中で脚が震え、力が抜けてその場に膝をつき、カサンドラは自分の身体を抱きしめた。