「殺したって…誰が?」
良太がのんびりした口調で言うと所長も同調する。
「ここで起こっているのは超常現象で人殺しではありませんよ。殺したなんて…」
三国は指を立てると所長の眉間に指を当てる。
「でろ」
銀色の瞳が怪しく発光すると所長から黒い煙のようなものが湧き出してきた。
「グググ…うまく…隠していたのに…いつ気づいた」
三国は黒い煙から解放された所長の脈を見て頷いた。良太はそれを見てすぐ電話をかけ始めた。
「最初に疑問を持ったのはあんたがやたら汗を拭くところだ。暑くないのにあんなに汗をかいて、おそらく体に馴染まないから体が病気を追い出すために発熱するように発熱して汗をかいていたんじゃないかと思った」
「くっ…この部屋は俺の部屋だ。誰にも渡さない」
「なぜこの部屋に執着する?」
「ここは俺の恋人の墓地だからだ。愛していたのに。俺を置いて出て行こうとしたから…壁に埋めて埋葬したんだ」
黒い煙は壁の一角に寄り添うように止まった。
「彼女は連れて行かせない。俺の女だ!この部屋は俺のものだ!」
ゾワリと広がった黒い煙は三国を包み込んだ。だがそれも一瞬のこと三国は銀色の瞳から強い光を放った剣を取り出してその煙を木っ端微塵に切り刻んだ。
「こ…こんな…彼女は…俺の…」
黒い煙は霧散して消えていった。
三国は剣をまた銀色の眼球にしまってしまった。
「みっちゃ〜ん救急車すぐ来るから待っててだって、その人大丈夫?」
「ああ。脈が弱いけど生きてる。よかった」
三国は無表情でそう言うと、あるところに電話をかけ始めた。
捜査一括香月蓮(こうづきれん)。三国と協力関係にある人物だたった。
「どうした?また厄介ごとか?」
蓮が言うと三国は答える。
「殺人。数ヶ月前から行方不明になってる女がマンションの壁に埋められてる」
こう言う面倒事を請け負ってくれるのが蓮だった。三国達はただの探偵。霊障を解決することはできるが犯人をどうこうするのは警察の仕事だった。そこで知り合った物好きな蓮が何かあったら自分を頼れと三国に申し出てくれたのだ。
「わかった。じゃあ失踪者リストを作って、あと業者の手配だな。すぐにそっちに行くから待っていてくれ」
三国はLIMEで住所を送るとタバコを吸い始めた。
「みっちゃん〜。ここ禁煙だよ」
「いいだろ。ちから使ったら疲れんだよ」
それを聞いて良太は黙った。やがてパトカーや救急車が来て所長が運ばれて行き、蓮も到着して三国に事情を聞くと、手配した業者に壁を砕かせた。
中からは白骨化した女性の遺体が出てきた。生前は美しかっただろう黒髪がコンクリートに絡み取られている。
「今回のことはどう言う扱いになるの?」
良太が聞くと蓮は困った顔で言った。
「おそらくあの所長さんは罪に問われるだろうね、誰も操られていたって信じないだろうから。それからあの白骨遺体も、犯人が死んでるから…」
「そっか…。なんだか彼女が可哀想だね」
三国は白骨化した女性の遺体を見ながらタバコを燻らせた。その時白骨化した遺体がふわりと光り声が聞こえた
『ありがとう』
それだけ言って光は消えた。
「彼女なんだって?」
良太が聞く。声は三国にしか聞こえなかったらしい。
「ありがとうだと」
そう言って三国と良太はマンションを後にした。
「でも料金先払いにしてもらっててよかったね〜危なくタダ働きになるところだったよ」
「ふっ…お前がしっかり者で助かったよ」
三国は良太の運転する車で棒付きのキャンディーを食べ始めた。
車内は禁煙。これを破るともう運転してやらないと言われていたから。
三国は今回の事件を考えていた。殺すほど執着した女。そんなもの今までいなかったから犯人の気持ちがわからない。ただ、他の人を殺すことには憎悪が湧いた。
だから切った。死んでいった人達のためにも。
正義だ悪だのには興味はない。他人にも興味はないが、死んだものへの気持ちは人一倍強かった。
その無念。苦痛。心残り。全てはらしてやりたかった。
「みっちゃんはタダ働きが多すぎるからお財布係の俺は大変なんだからね!もうちょっと俺のこと大事にしてよ〜」
良太がふざけた調子で言う。彼の存在に俺は生かされているから心から言った。
「わかってる、感謝してるよ」
「ふふ。わかってたらよろしい」
そうしてまた二人は事務所に帰っていった。