通された別室にはすでにお茶が用意され、茶菓子も置かれていた。
「どうもご足労いただきありがとうございます」
三国は初老の所長と思われる男をジロリと睨んで手を差し出した。
「前置きはいいから。事件の資料」
「は!はい」
男は慌てて資料を三国に渡した。男は左利きなのか、左手を使って。三国はソファに腰掛けるとパラパラと資料をめくる。そこには凄惨な事件記録が載っていた。
「うちのボスがすみません。いつもこんな態度なのでどうかお気になさらないでください」
良太は飄々と所長にそういうと自分も三国の隣に腰を下ろして茶菓子を食べ始めた。
「所長さんも座ったらどうですか?」
良太が言うと所長はハッとした様子で反対側のソファに腰掛ける。なぜかしきりに汗をかいており、ハンカチでそれを拭っていた。
「ふ〜ん。変死体が5人も出たのに部屋を貸していたの?」
黒二が言うと所長はもごもごと言い訳をした。
「あそこは人気のエリアでして、訳ありでも格安ならぜひすみたいという方がたえなくて…」
「事件の詳細についての説明は?」
「いえ。事故物件としか」
三国は頭をかいてため息をついた。
「一人、二人なら事故物件で貸し出すのはわかるけど、五人も死んだんだよ?これは歴とした殺人だ」
「ヒッ!しかし私たちが直接手を下したわけでは…」
三国の態度に良太はお茶を美味しそうに飲みながらのんびりと言う。
「みっちゃんそんな言い方したら所長さん萎縮しちゃって聞き出したいこと聞けなくなっちゃうよ?」
「ああ…悪い良太。この物件が実際にみたい。案内してくれるか?」
「はい。では早速若いものに送らせます」
「いや。あんたに送ってほしいね。あんた運転できるんでしょ?」
三国はそう言うとさっさと立ち上がってまだお菓子を食べている良太の足を跨いで出口に向かった。
「早く」
所長は戸惑いながらも社用車のキーを持って三国を追いかけた。
三国と良太は後部座席で座って渡された資料を読み返していた。
文章だけだったが、どれも凄惨な死に様でこれが霊障ならかなりの悪霊がいることになる。
「ねえねえみっちゃん。この仕事わりに合わないかもね。値段交渉してもうちょっと釣り上げようか?」
「いや。大体はもう解決しているから必要ない」
車窓から流れていくビル群を眺めながら三国は言った。その声は密やかでまるで誰にも聞かれたくないようだった。
「つきました。ここです」
そこは駅近の高層ビルで事故物件はその頂上の角部屋らしい。独身者向けで1LDKこれでも相場は30万ば超えるのだがここは10数万で貸し出していたらしい。
「どうりで借主が後を経たないわけだ。それで…どうして殺した?」
「は?」