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全日本霊体連合組合
全日本霊体連合組合
釜瑪秋摩
文芸・その他ノンジャンル
2025年04月24日
公開日
8,990字
連載中
こんにちは! 新しい住人さんですね? こちらは全日本霊体連合組合です。 急に環境が変わって、なにかとお困りですよね? そんなとき、組合に加入していれば、我々、組合員一同が、サポートしますよ。 どうでしょう? この機会に、是非、加入してみませんか? 日本全体で活動している霊体が集う組合。 各県に支部があり、心霊スポットや事故物件などに定住している霊体たちを取りまとめている。 霊たちの仕事は、そういった場所に来る人たちを驚かせ、怖がらせること。 本来、人が足を踏み入れるべきでない場所(禁足地)を、事実上、守っている形になっている。 全国の霊体たちが、健やかに(?)過ごせるように 今日も全連は頑張っています。 ※ホラーではありません

第1話 勧誘……?

 …………ポ~ン……

 ……ピンポ~ン……


 アパートの部屋のドアホンが鳴っている。

 起きなきゃ、と思うのに、目を覚ますのが億劫に感じてしょうがない。

 駄目だぁ……起きられないよぉ……。


 …………ポ~ン……

 ……ピンポ~ン……


 また、ドアホンが鳴る。

 ううん……しつこい……。


 …………ポ~ン……

 ……ピンポ~ン……

 ……ピンポンピンポン……

 ……ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!!


「なに? ヤダ怖い! 待って待って、今、出ますって!」


 ガバッと起き上がり、モニターをみると、見かけない男の姿がある。

 胸にクリップボード? のようなものを抱えているのは、なにかの勧誘か?

 とりあえず、玄関のドア越しに「どちらさま?」と聞いてみた。


『わたくし、全連ぜんれんのものなんですが』


 ゼンレン……?

 ゼンレンってなんだ?

 疑問に思いながら、そっと玄関を開けた。

 男はにこやかな顔で、話をはじめた。


「どうもすみません、わたくし『全日本霊体連合組合ぜんにほんれいたいれんごうくみあい』のコモリ、と申します」


 コモリと名乗った男は、名刺を差し出してきた。

 そこには『全日本霊体連合組合・会長かいちょう小森 助六こもり すけろく』と書かれている。


「え……と……全日本霊体連合組合? って一体……?」


「えー、高梨 渉たかなし わたるさん……でお間違いありませんよね?」


「そうだけど……」


「わたくしどもは、全日本霊体連合組合と申します。高梨さん、急に環境が変わって、なにかとお困りですよね? そんなとき、組合に加入していれば、我々、組合員一同が、サポートしますよ。どうでしょう? この機会に、是非、加入してみませんか?」


「環境って……いや、俺は特になにも変わっては……っていうか、霊体連合ってなんなの? 宗教の勧誘?」


 名刺と男を交互に見ながら、あまりの怪しさに、小森の姿を観察した。

 黒縁の眼鏡にチャコールグレーの三つ揃えスーツ、薄いグレーのシャツに濃紺のネクタイを締めている。

 髪は真っ黒でツヤツヤのサラサラ、背は……俺と同じくらいか? 百八十を切るくらい。


 真面目なサラリーマン、という印象? 歳も俺よりは上……三十代後半だろうな、という程度か。

 俺の疑わしさを隠さない視線を気にもしないで、小森は眉間にしわを寄せ、左手の中指で眼鏡のブリッジを上げた。


「……ははぁ、お気づきでない?」


「はあ?」


「いえね、高梨さん。アナタ、亡くなっているんですよ?」


 小森はクリップボードにペンを走らせながら、小首をかしげ、俺をみた。

 亡くなっている? 俺が?


 思わず振り返って玄関の中をみた。

 部屋は、間違いなく俺の部屋だ。

 俺はドアを開け放って外に出ると、小森に詰め寄った。


「なんなんだよ? なんの冗談……いやいや、冗談にしたって限度ってもんがあるだろ! 勧誘だとしても、悪趣味すぎるよ!」


「まぁ……そう思われるのも無理はありませんよね……ですが……」


 小森はドアに手を掛けると、勢いよく閉めた。

 ドアにぶつかる!!!

 驚いて、庇うように両腕で頭を覆った。


――バン!!!!


 と音を立てて閉まったドアは、俺の体を通り抜けた。


「え……?」


「ね? があったら、通り抜けたりしないでしょう?」


「ちょ……え? 待って待って待って? ホントに俺……死んでるの?」


 小森は俺の様子をみながら、またクリップボードにペンを走らせて「記憶に乱れあり」とつぶやいている。


「急にそんなことを言われても、俺はこうして生きていて、ここにいるじゃあないか!」


「そうやって、亡くなったことに気づかない人は、結構、多いんですよ」


 事故などで突発的に亡くなる人に多いという。

 あまりにも急なことで、その瞬間のことを忘れてしまい、なにもなかったかのように普通に暮らし続けるらしい。


「じゃ……じゃあ、俺は事故で……? なんの――」


「それは、わたくしどもでは、わかりかねますねぇ……ですが……」


「ですが?」


 小森はサッとクリップボードを俺に差し出してくると、またニッコリ笑った。

 受け取って良く見ると、申込書の用紙が挟まれていた。


「全連にご加入いただければ、思い出すために、なにかお手伝いできることも、あるかも知れません」


 幽霊は、もっと怖いものだと思っていた。

 おどろおどろしくて、ジメッとしていて、薄暗い感じの。

 でも……小森はまるで普通の人に見えるし、俺だってどこもなにも変わっていない。


 まだ、信じられないけれど、ドアを通り抜けたのは事実……。

 なんで死んだのか、これからどうすればいいのか、どうなるのか、先がわからない不安もある。

 俺の親が、この部屋を片づけに来たら、俺はどこに行けばいいんだ?


 この組合に入れば、これから先のことをどうにかしてもらえるのか?

 なんかアヤシイ気もするけれど、頼れるものが、ほかになにもない。


「わかったよ、入る。でも、俺、死んでたらお金なんて持っていないけど? 会費とかがあっても、払えないよ?」


「その辺りの条件なども含めて、お話をいたしますので、ご足労ですが組合までいらしてください」


 小森は俺の肩に触れると「さ、さ、こちらです」といって歩き出した。

 アパートの前に、車が止まっている。

 小森はキーを出すと、助手席のドアを開けた。


「へ……? なんで車……?」


「組合本部は、ここから小一時間ほどかかるんです。徒歩では時間がかかるので、どうぞ」


「いや、なんで車? どうなってんの? 乗れるの? てかこれ走っていたら、周りからどう見えるの?」


「よくあるでしょう? 怪談なんかで……首なしライダーとか、誰も乗っていない幽霊暴走車とか、そんなようなものです」


 生きている人間には、霊感が強くなければ見えないのでご安心を、と小森は言うけれど、なにをどう安心しろというのか。

 急かされて、恐る恐る乗ってみると、意外にも乗り心地は、生きていたときと同じだ。

 やっぱり俺は、生きているんじゃないのか?

 うまいこと、口車に乗せられて、変な宗教の勧誘とか、高いナニカを買わされるとか――。


「勧誘や押し売りはしませんよ。では、行きましょうか」


 音もなく車が走り出した。

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