龍二と翼の人生をかけた拳は木下の顎を砕きその場にひれ伏させる形となった。
顎が砕かれて言葉を失う木下。
しかしその表情は殴り合った男同士にしかわからない爽快感があった。
木下が目で訴える。
『とどめさせ』
と。
木下のダメージは顎だけではなく、そこから頭蓋骨まで亀裂が入る致命的なものであった。
それを理解したからこそ、潔く敗北を認める。
木下も一流の極道であった。
龍二は左手を伸ばし、
(ハント)
を唱える。
しかし弓が出現しない。
龍二は翼と放った渾身のパンチで生命力を使い果たしたことを悟る。
現に意識がもうろうとし始めている。
(くそ…どうしろっていうんだ…!!)
龍二は最後の一手が打てずにただ立ち尽くすしかなかった。
すると木下がすっと立ち上がる。
「お疲れ様でした。木下は眠りました。
いや、私に最期を委ねたようです。
さあ、わたしのここを狙って全生命力を使ってハントを撃ってください。」
と木下から入れ替わったDGが自分の心臓を叩いて龍二に指示する。
【全生命力か…。これを撃ったら俺は死ぬよな?】
龍二の問いに、
「ええ、榊原翼の思念は果たされ、私とあなたと翼はこの世から消えます。
最高の結末ですね。この日をどれだけ待ったか。終わらせましょう。」
DGが両手を広げて死を待ちわびている。
【おい、DG。お前に頼みがある。】
龍二の言葉に不思議顔のDG。
【榊原翼の意思はまだ俺の中にある。この体に翼の魂を戻せ。】
龍二が真剣なまなざしで訴える。
「どういうことですか?」
DGが問う。
【榊原翼を家族のもとに帰したい。お前ならできるだろう?
ジョージを深淵の者にしたように、魂を操る能力があるんだろう?】
龍二の確信めいた表情に、
「ええ、あの猫ちゃんはわたしがあなたの意思の奥深くにある存在を見つけて猫の姿をした生き物ならぬ存在に生まれ変わらせました。
しかし、翼はすでに死んでいます。あなたの希望はかなえられない。」
DGはそう言い切る。
龍二は左手を前方に出し意識をそこに集め弓の形をしたものを召喚した。
目を閉じて弓に集中する。
まるで車にガソリンを給油するかのように、体の中からドクンドクンと弓に自分のすべてを吸い込まれていく感覚になる。
弓が徐々に光り輝き光沢ある黒光りした弓と白く輝く矢が装備完了となった。
【DG。頼む。お前しか頼める奴がいないんだ。】
龍二の懇願に、
「努力はしましょう。」
と簡潔に返答する。
【それでいい。ありがとう。】
龍二は自分のすべての生命力を込めた矢をDGの心臓に放った。