龍二は黒川との戦いの時の失態を踏まえてハントを構える。
相手との距離が5メートルありノーダメージでフル体力での今の状態こそベストなタイミングである。
ただ奥の手をいきなり出す以上リスクは高い。
まさに最初から背水の陣で臨まなくてはならないのだ。
「おもしれえ事するじゃねえか!!」
龍二の出した弓矢を見てニヤリと笑う木下。
そして姿が霞むほどのスピードで一気に5メートルの間合いを詰め、左手で龍二の喉元を掴む。
その衝撃でハントは解け、そのままコンクリートの壁に叩きつけられる。
(なんて野郎だ!?)
出鼻をくじかれた龍二は背中に衝撃を受けて一瞬呼吸が止まる。
更に左腕一本で龍二を持ち上げ首を絞める。
龍二の体が宙に浮き、すさまじい握力で掴まれた首が徐々に絞まっていく。
龍二は木下の左腕を両手で掴み、引き剥がそうとするが、まるで丸太のような鋼の腕はピクリとも動かせない。
「そうか、黒川もさっきのやつで殺ったんだな?
クククッ…なんだお前は?なにもんだ?まあいい。
半殺しにしてから全部吐かせてやるからよ!!」
木下はケタケタ笑いながらそう言い放ち、右手で強烈なボディーブローを龍二の無防備なわき腹に入れる。
龍二の鍛え上げられた腹筋の防御力を超えるパンチ力。
苦痛にゆがむ龍二の表情を見て、木下はもう一発同じブローを叩き込む。
「ああ、いいことを思いついた。
お前の目の前であの女を犯してやるよ。
そういうのも興奮するだろ?クククッ」
悪意に満ちた笑みで木下が言う。
龍二の視界に倒れている悠亜が見えた。
(調子に乗んなよ!!)
龍二は木下の左人差し指を強引に剥ぎ取り思い切り捻じる。
顔を曇らせた木下の力が緩んだ隙になんとか脱出。
急いで距離をとる。
「てめえ、痛えじゃねえか…このやろう!!」
鬼の形相で木下があらぬ方向を向いた人差し指を右手で引っ張り、強引に骨をくっつける。
肩で息をしてすでに満身創痍の龍二。
(ちくしょう!!歯が立たねえ…!!なんとか手はないのか!?)
龍二は木下を睨みながら反撃の策を頭に描きだした。