家を出てしばらくすると誰かにつけられている気配を感じた。
(やはりな…。)
龍二はあてもなく飛び出したわけではない。
必ず自分に対してアクションを起こしてくると確信していた。
だからこそ悠亜を人質にしたのだ。
家の周辺は先日の発砲騒動で警察が警備している。
だからこの地区を抜けたあたりで動いてくるに違いない。
わざわざ勝負服であるロングパーカーを着てうろついて目印になってやっているのだから確実に認識できるはずである。
龍二は自分が捕獲される地点を100メートル先の角を曲がったところに定めた。
ちょうど裏通りで人通りが少ない。
少しずつ距離を詰める追跡者。
龍二は目的の角を曲がると立ち止まった。
そしてすぐに背中に何かを突き付けられた。
「動くな。」
追跡者が拳銃を龍二の腰に当てて静かに命令する。
おとなしく従う龍二。
すると黒塗りのセダンが真横に止まる。
後方の追跡者は後部座席のドアを開け、乗るように促す。
中に入ると奥にグッタリと動かない紅蘭が乗っていた。
酷い拷問を受けたのが明らかな姿。
龍二は頬をさする。
(生きている…。良かった…。
クソ!!ひでえことしやがる…!!)
龍二の怒りがこみ上げる。
すると紅蘭がうっすらと腫れた目を開け龍二の顔を確認すると、
「氷室さん…ごめんなさい…ごめんなさい…!!」
と消え入りそうな声で涙を流す。
龍二は紅蘭の肩を抱いて目で、
(謝るな!!お前は悪くない!!)
と訴える。
その直後、紅蘭側の扉が開いた。
男が、
「お前は用済みだ。」
と言いながら紅蘭を車から引きずり出す。
そしてドアを閉め、助手席に乗り込み運転手に合図。
追跡者が龍二の横に座り銃口を向けている。
紅蘭を道端に置き去りにして車は発車した。
(てめえら…!!紅蘭を拷問して俺の事を吐かして、悠亜で釣ったんだな…!!
許せねえ…!!こいつら全員殺してやる!!)
龍二の我慢をあざ笑う男たちの行動に怒りは沸点を超えた。