龍二は病室のベッドで自分の置かれている状況を思案していた。
窓から見える景色は自分が氷室龍二として生きた変わらない風景。
様々な可能性を頭の中で整理していた龍二に、
「気晴らしに散歩でもいこうよ。
先生もちょっとならいいって!」
と女が誘う。
(それはいい。)
龍二はゆっくりではあるが歩みを進め、初めて病院の外に出た。
辺りの景色を見渡す。
(ここは…立見組のシマ!?)
足が勝手に動く。
「ツバサ!駄目よ!病院からあまり離れたら!」
女が止めるが龍二の歩みは止まらない。
まさに導かれているといった感覚。
しばらく歩くと小さいながら豪華なビルの前に着いた。
女は龍二の数歩後ろをついてくる。
「もう、どうしちゃったの?しょうがないわね…。疲れたら言うのよ。
タクシーで病院まで帰ろう。」
すでに龍二の行動を諦めているようだ。
(立見のオジキは無事だろうか?
山崎一派は勢力を伸ばしている。オジキが心配だ。)
立見組・組長の立見卓は跡目問題では竹内側についた盟友であり直参の幹部である。
龍二も目をつけてもらい、竹内と一緒に一席を共にしたこともある。
立見組の前で思いに浸り立っていると、
「オイコラッ!あっちいかんかいクソガキがぁ!!」
立見組の若衆が威嚇してくる。
(おうコラ、てめえ誰に向かって口きいてんだぁ!!)
龍二は力を込めて睨みを利かして一歩前に出る。
すると女が、
「行こう、ツバサ。関わっちゃダメ!」
と龍二の手を引っ張る。
(離せババァ!こういう奴はきっちり教育しとかねえと示しがつかねえんだよ!)
必死に
(くそおおお!非力!なんて非力なんだ榊原翼ああ!!)
引きずられるかのように女に運ばれる龍二。
(この体…なんとかせねば…。
現状を考えるのはその後だ。戦える体を作らないと舐められちまうゥ…。)
龍二は受け入れられない現実を無理やり飲み込もうとしていた。