龍二が目を覚まして10日が過ぎた。
未だに【状況】は把握していないが【現状】は理解し始めていた。
それは鏡にうつる自分の姿をみた時だった。
その姿はまさに子供。
ガリガリの体に、痩せこけた頬。背丈は低い。
聞けば16才だという。
名は榊原 翼(サカキバラ ツバサ)というらしい。
何者かにリンチにあい、病院のベッドで60日前から意識を失い眠り続けていたというのだ。
身体は随分と動くようになっていたが、変わらず口はきけないままだ。
何度か警察が聴取に来たが、この榊原 翼がどういう経緯で殺されたかはわかるはずもない。
そんな現状を冷静に解釈してみると、あるひとつの答えが龍二の脳に浮かぶ。
死した自分の魂が、この榊原 翼に乗り移ったということだ。
では榊原 翼の魂はどこへ行ったのか?
おそらくもうこの世にはいないだろう。
この体の新しい宿主として自分が選ばれたのだ。
極楽浄土に行けるなどとは思ってはいない。
これまで幾多の人間の命を奪ってきた。
しかし地獄どころか再び他人の体を借り命を与えられた。
「先生がおっしゃっていたけど、頭を強くケガしたせいで記憶障害と言語障害があるみたい。
だから時間をかけてゆっくり治そう。ね、ツバサ?」
と言って励ます女は懇親的に自分の看病をしてくれる。
きっと榊原 翼はもう死んでいて、中身は別人だと知れば悲しむであろう。
なんでもこの年寄りの女に養われているという。
(なんだってこんなことになっちまったんだ!?)
龍二はやり場のない困惑と必死に戦っていた。
------------------------- エピソード6開始 -------------------------