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龍の翼-4



龍二が目を覚まして10日が過ぎた。

未だに【状況】は把握していないが【現状】は理解し始めていた。

それは鏡にうつる自分の姿をみた時だった。



その姿はまさに子供。

ガリガリの体に、痩せこけた頬。背丈は低い。

聞けば16才だという。

名は榊原 翼(サカキバラ ツバサ)というらしい。

何者かにリンチにあい、病院のベッドで60日前から意識を失い眠り続けていたというのだ。


身体は随分と動くようになっていたが、変わらず口はきけないままだ。

何度か警察が聴取に来たが、この榊原 翼がどういう経緯で殺されたかはわかるはずもない。


そんな現状を冷静に解釈してみると、あるひとつの答えが龍二の脳に浮かぶ。

死した自分の魂が、この榊原 翼に乗り移ったということだ。

では榊原 翼の魂はどこへ行ったのか?

おそらくもうこの世にはいないだろう。

この体の新しい宿主として自分が選ばれたのだ。

極楽浄土に行けるなどとは思ってはいない。

これまで幾多の人間の命を奪ってきた。

しかし地獄どころか再び他人の体を借り命を与えられた。


「先生がおっしゃっていたけど、頭を強くケガしたせいで記憶障害と言語障害があるみたい。

だから時間をかけてゆっくり治そう。ね、ツバサ?」

と言って励ます女は懇親的に自分の看病をしてくれる。

きっと榊原 翼はもう死んでいて、中身は別人だと知れば悲しむであろう。

なんでもこの年寄りの女に養われているという。


(なんだってこんなことになっちまったんだ!?)

龍二はやり場のない困惑と必死に戦っていた。



------------------------- エピソード6開始 -------------------------

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