【第1章】
龍の翼
「人間、死ぬ時は何したって死ぬ。モチ食うたかて運が悪きゃ死ぬやろ」
氷室龍二は渡世の親である竹内久正の言葉を思い出していた。
今まさに死の瞬間に浮かんだ言葉に龍二は笑みを浮かべた。
血まみれで大の字に地に転がる龍二。
(身内に騙されて死ぬなんて、モチ食って死ぬよりみじめだぜ。)
自分の失態にあきれて笑っている。
「体中に弾丸受けてまだ笑っていられるとは、さすがですなぁ。
極東一家が誇るヒットマンは格がちがいますわ。」
男が龍二の顔に拳銃を向けながら薄ら笑いを浮かべ言った。
それに龍二が
「黒川…。地獄で待っとるぞ。だがな…地獄より地獄を味わらせてやるから…覚悟してこいよ…。」
龍二がこの状況下でも冷静を保てるのは、常に竹内のために死ぬ覚悟ができているからである。
「氷室の兄貴。俺はねえアンタに憧れてたんだよ。
イケイケの殺戮集団竹内組の若頭のアンタにね。
だけど所詮アンタも人間。こっちが流したデマにまんまと引っかかってこのザマ。ガッカリですわ。」
黒川の話は聞こえているが、すでに意識が混濁し始めている。
「ほな、さいなら。」
黒川が引き金を弾く。
まるでスローモーションのように目の前に弾丸が迫ってくる不思議な感覚。
そしてもう一度あの言葉が蘇る。
「人間、死ぬ時は何したって死ぬ。モチ食うたかて運が悪きゃ死ぬやろ」
(親父…すまねえ。)
龍二は静かに目を閉じた。