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エピローグ

「そして、彼はいなくなった」

 その言葉が会議室に響いた瞬間、まるで空気が一変した。お偉いさんの口から発せられたその一言、まるで何か重いものが降りてきたかのように、周囲がピンと静まり返った。

「振り返ると、彼がいなくなるなんて全く予想していなかった。いや、予想どころか、命令した覚えすらない。最初はただ、『おい、小説書けよ!』と冗談半分で言っただけだったはずだ。まさか、こんな大事になるとは。後悔しているのか、していないのか、自分でもよくわからない。ただ、彼が書いたものを、私は見たことがある。

 彼は創作の過程で、見てはいけない世界を見てしまったようだ。そう……あれは、作家特有の世界戦だ。そして特に、恋愛小説だったからこそ、その世界は時が止まって見えたのかもしれない。

 最後のページにたどり着いた時、彼はもう、物語と現実の区別がつかなくなっていた……。苦しかっただろうに……。

 もう、あの時の彼はただの作家じゃない。まるで、ストーリーの中で溺れた人魚みたいだったんだろうな。気の毒に。

 だから、俺は思うんだ。作家には、もっと親切にしないといけない。特に、恋愛小説なんて、ふわっとしたものだと思いがちだが、実はあれが一番恐ろしい。最初は軽い気持ちで書き始めても、最後にはその小説が本当に現実になってしまうことがあるんだ。ええ、まさに、小説が“現実”という魔法を使うんだ。

 我々はもっと作家に愛を込めよう。二度と悲劇を起こさないように。ただ、そう思う」


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