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06

 オレンジの爽やかな喉越しを感じ、息を吐き出す。


「案外、つまらなかったわよ。汚いし」

「元々の見た目も汚いしな。醜さ倍増ってな」

「☆2」


 汚い。酒臭い。吐しゃ物臭い。

 いい点は、度数が高い酒を使えば、燃やしてしまって、掃除が簡単というところ。


 燻ぶった木材が、木炭の山になるのを眺める。


「芋でも焼くか?」

「いいわね。締めまで合わせて、☆3にしてあげる」


 燻ぶった木炭の中から芋と、先程見た魂を取り出してきたディスプレイスーツは、私に芋を放ると、口の太い瓶に魂を詰め込んでいた。


「酒にでも漬けるの?」

「臭いだけで何の効能も無さそうだな」


 しかし、じっとその瓶を見つめると、新たに出したウォッカを酒瓶に詰め始めた。


「採用」


 ウォッカに満たされた瓶の中で燃え続ける炎は、燃え上がるわけでもなく、ただそこに存在し続けていた。

 魂というのだから、本物の炎と同じように考える方がおかしいのかもしれない。


「ねぇ……結局、貴方って、いつまで私に付き合ってくれるの?」


 理屈など全くわからない力を使うディスプレイスーツ。


 いきなり、異世界に転生させられた私にとって、その力の有無は生死に直結する重要な事柄だ。

 今はただ罰とやらで、手を借りられているだけ。つまり、一時的な協力関係。いつ途絶えるかもわからない関係ということだ。


 致死量の二日酔い混じりの思考では、オークションで売られようが、死のうがどうでもよかったが、腹が満たされたからか、ディスプレイスーツの力を見たからか、少しだけそれを無くすのが惜しいように思えた。

 無くすにしても、自分が死んでからにしてほしいと思う程度には。


「この酒がうまくなるまで」

「おいしくなる未来が見えないんだけど」


 私が望む悪行に関しては、天使たちの叶えるべき”善行”になるから、まだまだお互い利用し合おうということか。


「ひらめき発想創意工夫。そいつが、この世界の生きるコツだぜ? マスター」

「貴方が言うと、重みが違うわね」


 「だろ?」と、自信満々に笑みを作るディスプレイスーツに、つい笑みが漏れてしまう。


 いきなり死んだと言われても、正直実感はわかない。実際、今は生きているわけだし。

 しかも、異世界にいるなんて、外国に裸で放り出されたようなものだ。自暴自棄にもなる。


「…………よく考えたら、私も天使嫌いかも」


 何の恨みがあって、本人の同意なしに人生を強制リスタートさせてくるのだろうか。


「”自分がされて嬉しいことは相手にもしなさい” ママから習っただろ?」

「イヤなことじゃなくて? でもまぁ、いいわ」


 その言葉の意味は、善悪は自分で考えて決めろということ。


 例え、


 だから、天使の思惑とは違う、腹の立つ相手をいじめ尽くすことだけに、第二の人生を使っても許されるということだ。


「まずは、実験のための人が必要ね」


 発想を試す必要がある。

 試すだけの技術が必要である。

 工夫をするための知識が必要である。


 そのために、必要な物。


「教会でも開こうかな……」

「ハァ? なんで」

「いや、狂信者でも作れば、金は定期的に入るし、自主的に体を差し出す人も出るでしょ? そうすれば、その魂を入れる先もできるわけだし、わりと色々な問題を解決できる気がする」


 信者を作ることができるかどうか、そこは一旦置いておいて。

 継続的な収益と物資の確保。それらによるペナルティが最小限であるなら、なお良し。


 人間オークションがある世界の倫理観や知識が、どの程度自分と乖離しているかはわからないが、現状私に思いつくいくつかの方法の中で、最高の手であった。 


「…………お前、本当に人間か?」


 少し前屈みになって、こちらに目をやるディスプレイスーツに、同じように目をやる。


「反対?」


 問いかけてみれば、ディスプレイスーツの口端は大きく上がった。


「イヤ! 大いに賛成だ! あの天使共に初めて感謝を捧げてやる気になった!」


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