オレンジの爽やかな喉越しを感じ、息を吐き出す。
「案外、つまらなかったわよ。汚いし」
「元々の見た目も汚いしな。醜さ倍増ってな」
「☆2」
汚い。酒臭い。吐しゃ物臭い。
いい点は、度数が高い酒を使えば、燃やしてしまって、掃除が簡単というところ。
燻ぶった木材が、木炭の山になるのを眺める。
「芋でも焼くか?」
「いいわね。締めまで合わせて、☆3にしてあげる」
燻ぶった木炭の中から芋と、先程見た魂を取り出してきたディスプレイスーツは、私に芋を放ると、口の太い瓶に魂を詰め込んでいた。
「酒にでも漬けるの?」
「臭いだけで何の効能も無さそうだな」
しかし、じっとその瓶を見つめると、新たに出したウォッカを酒瓶に詰め始めた。
「採用」
ウォッカに満たされた瓶の中で燃え続ける炎は、燃え上がるわけでもなく、ただそこに存在し続けていた。
魂というのだから、本物の炎と同じように考える方がおかしいのかもしれない。
「ねぇ……結局、貴方って、いつまで私に付き合ってくれるの?」
理屈など全くわからない力を使うディスプレイスーツ。
いきなり、異世界に転生させられた私にとって、その力の有無は生死に直結する重要な事柄だ。
今はただ罰とやらで、手を借りられているだけ。つまり、一時的な協力関係。いつ途絶えるかもわからない関係ということだ。
致死量の二日酔い混じりの思考では、オークションで売られようが、死のうがどうでもよかったが、腹が満たされたからか、ディスプレイスーツの力を見たからか、少しだけそれを無くすのが惜しいように思えた。
無くすにしても、自分が死んでからにしてほしいと思う程度には。
「この酒がうまくなるまで」
「おいしくなる未来が見えないんだけど」
私が望む悪行に関しては、天使たちの叶えるべき”善行”になるから、まだまだお互い利用し合おうということか。
「ひらめき発想創意工夫。そいつが、この世界の生きるコツだぜ? マスター」
「貴方が言うと、重みが違うわね」
「だろ?」と、自信満々に笑みを作るディスプレイスーツに、つい笑みが漏れてしまう。
いきなり死んだと言われても、正直実感はわかない。実際、今は生きているわけだし。
しかも、異世界にいるなんて、外国に裸で放り出されたようなものだ。自暴自棄にもなる。
「…………よく考えたら、私も天使嫌いかも」
何の恨みがあって、本人の同意なしに人生を強制リスタートさせてくるのだろうか。
「”自分がされて嬉しいことは相手にもしなさい” ママから習っただろ?」
「イヤなことじゃなくて? でもまぁ、いいわ」
その言葉の意味は、善悪は自分で考えて決めろということ。
例え、
だから、天使の思惑とは違う、腹の立つ相手をいじめ尽くすことだけに、第二の人生を使っても許されるということだ。
「まずは、実験のための人が必要ね」
発想を試す必要がある。
試すだけの技術が必要である。
工夫をするための知識が必要である。
そのために、必要な物。
「教会でも開こうかな……」
「ハァ? なんで」
「いや、狂信者でも作れば、金は定期的に入るし、自主的に体を差し出す人も出るでしょ? そうすれば、その魂を入れる先もできるわけだし、わりと色々な問題を解決できる気がする」
信者を作ることができるかどうか、そこは一旦置いておいて。
継続的な収益と物資の確保。それらによるペナルティが最小限であるなら、なお良し。
人間オークションがある世界の倫理観や知識が、どの程度自分と乖離しているかはわからないが、現状私に思いつくいくつかの方法の中で、最高の手であった。
「…………お前、本当に人間か?」
少し前屈みになって、こちらに目をやるディスプレイスーツに、同じように目をやる。
「反対?」
問いかけてみれば、ディスプレイスーツの口端は大きく上がった。
「イヤ! 大いに賛成だ! あの天使共に初めて感謝を捧げてやる気になった!」