「お次は、今回の目玉商品! ”アマルガムガール”です!!」
”アマルガムガール”
聞き覚えのない単語だ。
しかし、牢屋の上からかけられた布が剥ぎ取られ、当てられた照明のおかげで、それが誰を差しているのは、嫌というほどわかった。
「少年少女20人の魂を錬成して作り出した”アマルガムガール”! 20人分の魂がひとつの魂へ奇跡的な配合で成り立っている、まさに奇跡を身に宿した貴重な存在です! その中でも、今回は貴重! 自我がはっきりとしている完全体での提供です!! そのまま使っても良し、小さく切っても良し! 自分好みにカスタマイズ可能です!!」
丁寧に熱く説明してくれいるようだが、残念なことに、そのアマルガムガールとやらは、全く別の世界の死んだ魂を放り込まれただけの屍だ。
偽物に他ならない。
「神の恩寵を受けた魂と肉体! 50万から!」
金額の価値はわからないが、ほんの数秒で10倍まで上がった価格。
まだまだ上がりそうな勢いだ。
「800万」
特に、客席中段、ステージ目の前のVIP席のような場所に座る、目元のマスクの上から双眼鏡でこちらを見ている小太りの男。
アイツが、値段を吊り上げている。
「1200万」
だが、私の値段はついに決まったらしく、木槌が鳴り響く。
1200万。
少なくとも、ここにいる金持ちそうな服装のほとんどの人間が、手を上げられないだけの価格。
それ以上のことはわからない。
「何か言ってみせろ」
商品の確認に来たのか、ステージに上がってきた男は、私を見下ろしながらそう言った。
ディスプレイスーツはまだだろうか。
会場に現金はないだろうからと、今は別行動しているところだが、オークションの目玉商品の落札は終わった。
ならば、オークションもそろそろ閉幕。戻ってきてもいい時間だ。
「マスクの下、見せてもらえますか?」
体型としては、小太り中年人間。一応、私を買った持ち主。
「主人な顔を覚えようとは、殊勝な心掛けだな」
自慢げに口端を上げる男は、私にだけ見えるように目元のマスクを少しだけ上げる。
会場でマスクを取るのが禁止なのだろうか。
仕方なく、覗き込むように、男を見上げる。
ただでさえ、ステージは逆光で見えにくいのに、マスクを上に上げるもんだから、完全に顔が影になってしまっている。バカなんじゃないだろうか。
だが、ふと青白い光がマスクの下の顔を照らした。
「…………及第点」
体系も含めて、ギリギリ上司っぽい。
「マジかァ? 似てなくないか?」
私と同じように、背を丸めた上で、首を傾げながら男の顔を覗き込むディスプレイスーツの姿に、会場がざわつく。
異世界と聞いていたし、あまりにも普通にいるものだから、この世界ではディスプレイスーツの見た目は、一般的かと思っていたが、どうやら違うらしい。
会場にいるほとんどが、ディスプレイスーツを指差し、恐怖に慄くように叫んでいる。
「金と魂は持ってきたの?」
「もちろん。マスターの頼みとあらば、公園のベンチで薄くなった髪をカラスに毟られてた男の魂ひとつ、当日配送ってな」
視界の隅で開かれたディスプレイスーツの手の平には、淡い光を放つ炎。
曰く、クソ上司の魂らしい。
「うん。素晴らしいわね。じゃあ、さっそく、やりましょう」
ちょうど、ここは舞台の上だ。
「もっと吟味しなくていいのか?」
「リサイクル不可なの?」
「まさか! 魂の取り扱いは、神の次に得意だ」
「なら、いいわ。感情には鮮度があるし、モチベーションは小さな報酬と成功の積み重ねよ。要は、”やってみなきゃわからない”」
何度も魂を取り出して作り直せるなら、何度だって気が済むまで続ければいいだけじゃないか。
振り返って、こちらを見つめるディスプレイスーツに目をやれば、肩をすくめて笑った。
「オーケー。マスター。サイコーにクールなエンターテイメントを御覧に入れましょう」
ディスプレイスーツは、会場の人々の視線を集めながら、ステージに立ちあがった。