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04

「お次は、今回の目玉商品! ”アマルガムガール”です!!」


 ”アマルガムガール”

 聞き覚えのない単語だ。


 しかし、牢屋の上からかけられた布が剥ぎ取られ、当てられた照明のおかげで、それが誰を差しているのは、嫌というほどわかった。


「少年少女20人の魂を錬成して作り出した”アマルガムガール”! 20人分の魂がひとつの魂へ奇跡的な配合で成り立っている、まさに奇跡を身に宿した貴重な存在です! その中でも、今回は貴重! 自我がはっきりとしている完全体での提供です!! そのまま使っても良し、小さく切っても良し! 自分好みにカスタマイズ可能です!!」


 丁寧に熱く説明してくれいるようだが、残念なことに、そのアマルガムガールとやらは、全く別の世界の死んだ魂を放り込まれただけの屍だ。

 偽物に他ならない。


「神の恩寵を受けた魂と肉体! 50万から!」


 金額の価値はわからないが、ほんの数秒で10倍まで上がった価格。

 まだまだ上がりそうな勢いだ。


「800万」


 特に、客席中段、ステージ目の前のVIP席のような場所に座る、目元のマスクの上から双眼鏡でこちらを見ている小太りの男。

 アイツが、値段を吊り上げている。


「1200万」


 だが、私の値段はついに決まったらしく、木槌が鳴り響く。


 1200万。

 少なくとも、ここにいる金持ちそうな服装のほとんどの人間が、手を上げられないだけの価格。

 それ以上のことはわからない。


「何か言ってみせろ」


 商品の確認に来たのか、ステージに上がってきた男は、私を見下ろしながらそう言った。


 ディスプレイスーツはまだだろうか。

 会場に現金はないだろうからと、今は別行動しているところだが、オークションの目玉商品の落札は終わった。

 ならば、オークションもそろそろ閉幕。戻ってきてもいい時間だ。


「マスクの下、見せてもらえますか?」


 体型としては、小太り中年人間。一応、私を買った持ち主。


「主人な顔を覚えようとは、殊勝な心掛けだな」


 自慢げに口端を上げる男は、私にだけ見えるように目元のマスクを少しだけ上げる。


 会場でマスクを取るのが禁止なのだろうか。

 仕方なく、覗き込むように、男を見上げる。


 ただでさえ、ステージは逆光で見えにくいのに、マスクを上に上げるもんだから、完全に顔が影になってしまっている。バカなんじゃないだろうか。


 だが、ふと青白い光がマスクの下の顔を照らした。


「…………及第点」


 体系も含めて、ギリギリ上司っぽい。


「マジかァ? 似てなくないか?」


 私と同じように、背を丸めた上で、首を傾げながら男の顔を覗き込むディスプレイスーツの姿に、会場がざわつく。


 異世界と聞いていたし、あまりにも普通にいるものだから、この世界ではディスプレイスーツの見た目は、一般的かと思っていたが、どうやら違うらしい。

 会場にいるほとんどが、ディスプレイスーツを指差し、恐怖に慄くように叫んでいる。


「金と魂は持ってきたの?」

「もちろん。マスターの頼みとあらば、公園のベンチで薄くなった髪をカラスに毟られてた男の魂ひとつ、当日配送ってな」


 視界の隅で開かれたディスプレイスーツの手の平には、淡い光を放つ炎。

 曰く、クソ上司の魂らしい。


「うん。素晴らしいわね。じゃあ、さっそく、やりましょう」


 ちょうど、ここは舞台の上だ。


「もっと吟味しなくていいのか?」

「リサイクル不可なの?」

「まさか! 魂の取り扱いは、神の次に得意だ」

「なら、いいわ。感情には鮮度があるし、モチベーションは小さな報酬と成功の積み重ねよ。要は、”やってみなきゃわからない”」


 何度も魂を取り出して作り直せるなら、何度だって気が済むまで続ければいいだけじゃないか。

 振り返って、こちらを見つめるディスプレイスーツに目をやれば、肩をすくめて笑った。


「オーケー。マスター。サイコーにクールなエンターテイメントを御覧に入れましょう」


 ディスプレイスーツは、会場の人々の視線を集めながら、ステージに立ちあがった。


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