明らかに煽ってきている、ディスプレイスーツに流されてはいけない。
「それで、そのイタズラ好きの悪魔さんが、一体何の用?」
よくわからないが、目の前のディスプレイスーツは”悪魔”だという。
悪魔など、物語の中でしか見たことがないが、実際目の前にいるのだし、自分すら生まれ変わったと言われてしまっていては、悪魔がいても些細なことだろう。
少なくとも、煽ってくるような悪意のある奴への対応が変わることはないのだから、種族なんて些細なことだ。
冷静を保ちつつ問いかければ、ディスプレイスーツは、相変わらずのニタリ顔で、こちらを見下ろしている。
「不本意だが、天使の連中に『お前に尽くせ』って言われちまってな。仕方なく、渡されたお前の魂を、テキトーに幸薄そうな奴に放り込んだら、即オークション行き!! 俺様もビックリだ!」
ジョークだとばかりに笑っているが、今の短い言葉の中に、色々ツッコミたいところが多い。多すぎる。
どうやら、ディスプレイスーツは”イタズラ”し過ぎて、天使に罰として死んだ私の魂を渡された。
刑務所の社会貢献作業的なものの、個人版のようなものだろうか。
それが刑罰で、このディスプレイスーツは、手っ取り早く奉仕活動を終えるために、不満の多そうな、この体の持ち主に、私の魂を放り込んだ。
そして、予想以上の速さで、奉仕のタイミングが来てしまったと。
そういうことだろうか。
我ながら、素晴らしい悪運だ。
「ってわけだ。一応、俺様はお前に尽くすことになってるしな。”願い事”を聞いてやるぜ?」
昔、読んでいた絵本の悪魔も、こんな顔をしていた気がする。
『ここから助けてほしい』
それが、ディスプレイスーツの予想している私の言葉だろう。
こいつの企み通り、手っ取り早く奉仕が終わる最高の言葉だ。
「結構です」
だから、拒否することにした。
「…………」
案の定、嗤っていた見下ろしていた顔が真顔になり、組んでいた足を開いて、背を丸めてこちらを覗き込むように見下ろしてくる。
「…………
「は?」
ただ、予想通りとばかりに高みの見物をしている奴の思い通りにしたくないというだけだ。
「ハッ! だとしたら、相当のおツムがイカれてんだな! その程度で、俺様が落ち込むとでも? 人間の一匹程度、しかも、センスのネェクソレスなんざ、起きる直前の夢程度だ」
「ふぅーん……」
それは、結構覚えてるんじゃないかと思うが、個人差が大きそうだ。
「じゃあ、例えば、『売られた先にも、一緒についてきて、逐一私の願いを叶えて』ってお願いしたらどうなるの?」
そう問いかければ、嬉しそうに笑っていたはずの画面の口が、消えた。
「貴方は”私に尽くせ”って言われてるんでしょ? イタズラ好きの悪魔さん」
本当に、ディスプレイスーツの言葉が正しいならば、私の願いを無下にすることはできないはず。
状況としては、全くそうは思えなくても、立場としては、目の前のディスプレイよりは、私の方が上ということになる。
「もし、私が『貴方が死ぬまで、貧しい人間にパンを与え続けなさい』って言ったら――」
「――――ハッ!」
私の言葉を遮り、被せるように続けられる言葉。
「そんなことをさせられるなら、テメェを殺した方がマシだな!」
目の前のディスプレイが、壊れたテレビのようにノイズ交じりの点滅し始める。
バチバチと弾けるような光。
頭痛が脈動し、視界が歪む。
頭痛と吐き気の中、無我夢中に、檻の間から手を伸ばし、指先がディスプレイスーツに触れた瞬間、力任せに引っ張った。
直後、光の点滅は、ガシャンと音を立てて止まった。