「くっ!」
私は向けられた焔を【
「イグナート!」
「無事かよ!? イグナート!」
リュドヴィック卿とオクトの声が響く。だが、答えている余裕などなかった。それほどまでに威力が強いのだ。
《ホウ? 防グカ。ナラバ、コノ姿トナッテ、オ前ヲ殺ソウ!》
青い焔が止んだと思ったのもつかの間、巨大な怪物だったはずのサテュロスは、私と同じくらいのサイズとなっていた。両肩を鳴らしながら、不気味な笑みを浮かべる。
《サア、ヤロウ!》
「くっ!!」
サテュロスはものすごい速さで私に向かってきて、思い切り腹を殴ってきた。
「ぐはっ!!」
口から血が出る。同時に思い切り宙へと飛ばされ、サテュロスの猛攻が来る。
「くっ! されるがままだと……思うなよ!」
私は右側から来たパンチを左腕で防ぐと、サテュロスの胴体に蹴りを入れ、その勢いで洞窟の壁へと着地する。そして、距離を取る。
「【怒焔の矢】!」
『ギフト』をサテュロスめがけて放つ。だが、その焔は簡単にかわされてしまう。
「イグナート、援護する!」
「無茶すんじゃねぇよ!」
リュドヴィック卿とオクトが、それぞれ両サイドからサテュロスに向けて刃を振りかざすが、両手の人差し指と中指でいとも簡単に防がれてしまう。
《勇者以外ガ、邪魔ヲスルナ!》
サテュロスが剣を握ったままの二人を振り回し、投げた。
「うわぁああああ!?」
「くっ!」
オクトとリュドヴィック卿が吹き飛ばされていくのが見えた。
「リュドヴィック卿! オクト!」
「気にしている場合ではないのである! 我が援護をするから撤退を!」
叫ぶ私の耳に、アンドレアス殿の声が聴こえてきた。撤退?
確かにそうだ。おそらく、吹き飛ばされた三人への救護魔法でアンドレアス殿は手一杯だろうし、残す戦力は私だけだ。
その私も、本能で感じる。このままでは勝てないと。
《勇者ヨ、ドウシタ? 来ナイノカ?》
サテュロスは殺す気だ。そんな相手と……どう戦えばいい?
双剣を構えながら、私は必死に考える。
――その時。
〔だらしないわね、後輩〕
『全てを見た魔女』の声がした。振り向けば、彼女がいつの間にやら私の頭上にある崖ギリギリの所に立っていた。
「全く、このわたしが鍛えてあげたのにこの体たらくはなに? 簡単にやられてるんじゃないわよ!」
《オ前ハ?》
『全てを見た魔女』の登場に、サテュロスが困惑したような声を出す。すると、彼女は胸を張り、名乗る。
「わたしは魔女。『全てを見た魔女』。……そして、かつての聖女よ!」
そう言うと、彼女の姿が変わる。黒いドレスは白くなり、魔女帽子は消え、美しい銀髪がなびく。そして、その手には本。その姿はまさに。
「聖女ゼナイド!?」
驚く私に向かって、彼女、
「さ、聖女の力を見せてあげるわ! この場にいる全員へ、『聖なる加護』を!」
本が白く光り輝くと同時に、身体に今までにないくらいの力が溢れてくるのがわかる。
「さ、反撃なさい!」
ゼナイドの言葉に頷くと、私は『ギフト』、【怒焔の矢】を双剣に纏わせる。制御できるようになってから考えていた技だ。
「行くぞ! サテュロス!」
私は、もうスピードでサテュロスに向かって行き、焔を纏った刃で縦横無尽に斬りつけていく。サテュロスはそれをギリギリでかわし、青い焔を両手に纏う。
《勇者ヨ、燃エロ!》
青い焔が私向かって飛んでくる。……このスピードはかわせない!
そう思った時、二つの盾が焔を防いでくれた。リュドヴィック卿とオクトだ。
「驕ることなかれ!」
そして、サテュロスの背後をブリアック卿がとり、右わき腹へと蹴りを入れる。そこへ、畳みかけるように氷が飛んできて、サテュロスの足元を凍らせる。
《フム。勇者以外モヤルカ》
連携攻撃を受けてもなお余裕そうなサテュロスに、私達は武器を構え直した。