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第78話ようやくの再会と

 あれからどれくらい経っただろうか? 何日もいた気がするし、数時間の気もする。

 とにかく、ようやく『ギフト』の制御をものにした私の耳に、『全てを見た魔女』の声が響いてきた。


〔どうやらよさそうね? お仲間達も大丈夫そうだから……会わせてあげる〕


 その言葉を認識した直後、視界が歪む。少し気持ち悪いが我慢していると、気付けば広い洞窟のようなところに立っていた。

 ふと周りを見れば、リュドヴィック卿、オクト、ブリアック卿、アンドレアス殿が等間隔にいる。


 みんな、同じように困惑しながら周囲を見渡した後、再会できたことを認識し……オクトが私に駆け寄ってきた。


「イグナート! 無事だったかよ!」


 心底心配したという表情のオクトに、私は困り顔で返す。


「あぁ、心配かけてすまない。大丈夫だ。オクト達はどうだったんだ?」


 そう言った瞬間、みんなの表情が一瞬固まる。そして、代表してかリュドヴィック卿が私に向かって声をかけてきた。


「お前、なんか雰囲気やら口調やらがだいぶ変わったが……何があった?」


「そんなに変わりましたか? うーん……言うなら……『自分と向き合った』からでしょうか? あ、あと……イグナートとしての記憶を取り戻しましたので。おそらくそれらが原因か……と?」


 私がそう説明すると、オクトが驚きの声をあげる。


「それにしたって変わりすぎだろ! 別人かって思う……いやそりゃ言い過ぎか……でもよぉ、だいぶ変わったぜ? マジで!」


 ……そんなに変わったのだろうか? 自分ではわからないな……。


 すると、アンドレアス殿が冷静に口を開いた。


「ふむ。魔力の方もだいぶ変わられた様であるな。混在していたものが、融合? 統合? されたようである。……ということは『ギフト』の方も……?」


「はい。制御に成功しました」


 私の答えに、みんなから声が漏れる。すると、ブリアック卿が静かに言う。


「重畳。『全てを見た魔女』に謝意を述べたい所存だが……」


 そう言われて、そういえば『全てを見た魔女』の姿がないことに気づく。彼女はどこへ?

 みんなが周囲を見渡すが、見当たらない。どこからともなく声が聴こえてきた。


〔わたしのお節介はここで終・わ・り。後は頑張りなさいな、後輩〕


 それだけ聴こえた後、何もなく数分が経った。リュドヴィック卿が咳払いをする。


「どうやらオレ達の前に現れる気はないようだな。……仕方ない、先へ進むとしよう。アンドレアス殿、ここから先はどこへ向かえばいいでしょうか?」


 そう訊かれ、アンドレアス殿が頷きながら答える。


「うむ。ここからそう遠くない所で、大量すぎるほどの魔力を感じるである。おそらく、そこに元凶がいるのであろうな」


 その言葉に、オクトが反応する。


「じゃあ、いよいよ決戦ってことですね……!」


「そういうことだ。皆、覚悟はいいな? 行くぞ!」


 リュドヴィック卿にそう言われ、全員で強い意志を持って頷き、アンドレアス殿の案内で先に進むことへした。馬達もいつの間にやらこの洞窟にいたのだが、帰りのことなどを考慮してここに置いていくことになった。


 そう、生きて帰ることを目的として……。


 ****


 最初は調査と『全てを見た魔女』と出会うことだった。だが、今は元凶を突き止めることだけが目的になった。そして……出来れば排除を……というのが私の個人的な願望だ。


「ちっきしょー! 魔物多すぎるんだって!」


 オクトが愚痴りながら、斬撃を放っている。そうなのだ。ここに来て、一気に魔物の数が増えた。


 大方の雑魚は、私の『ギフト』とアンドレアス殿の魔法で倒していくが、大物はどうしても、近接がメインのリュドヴィック卿、オクト、ブリアック卿の三人が担当することになる。


 彼らの疲労も相当溜まる。目的地に辿り着いた頃には、消耗が激しかった。


「このまま突入するのは無謀というものだろう。体力とアンドレアス殿とイグナートには、それに加えて魔力回復も入った飲み薬を渡す。味の保証はできないが……」


 リュドヴィック卿の言葉に私は少し笑いながら答える。


「この状況です。味のことなど些細なことですよ」


「うむ。……本当に変わられたな、イグナート殿よ。まぁ頼りがいもあるというもの。話がずれたであるな。遠慮なく飲ませて頂くである」


 そう言って、リュドヴィック卿から飲み薬を受け取ると、私とアンドレアス殿は一気に飲み干した。……確かにまずいが、数々の薬を飲まされた『深南みなみとしての記憶』のおかげか、私にとっては平気な部類だった。


 続いて、残りの三人も飲み干す。オクトは顔をしかめていたが。

 うむ。確かに身体の疲労が回復したのを実感するな。魔力も。


「これから本拠地だ。いいか? オレ達の目的はあくまで元凶を突き止めることだ。倒せとまでは言わん! ……生きて帰るぞ!」


 こうして私達は……敵地へと乗り込んだ。

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