『全てを見た魔女』が指を鳴らす。すると、先程の空間で見た鏡が四つ現れた。
その中には四人の姿があった。
「無事でよかった……? ちょっと待ってくれ! 皆、各々戦っていないか!?」
私が思わずそう声をあげると、『全てを見た魔女』は妖艶に笑う。
「それはそうよ、修行ですもの。そして、あなたにも勿論修行してもらうわよ? ようやく覚醒した勇者様?」
「待て。なぜ貴女はそこまでしてくれるんですか? 確かにありがたいですが……」
困惑したように私が言うと、彼女は微笑みながら告げる。
「言ったでしょ? お節介よ。お・せ・っ・か・い。さぁ、あなたも修行よ! 『ギフト』の制御をなさい!」
そう言って指をもう一度鳴らし、私はまたしても別空間に飛ばされてしまった。
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「ここは……?」
今度は森のような、木々が青々と生い茂った空間だった。とりあえず、双剣を構え警戒する。こちらに向かって何かが迫ってくる音が聴こえてきた。
「足音からして……数は五か?」
私は、『私』と向き合ったことで得たエルフとしての能力を行使する。今使用したのは、聴力だ。
音がどんどん近づいてくる。この感じは……。
「ゴブリン……か」
ようやく視認できる範囲まで来て音の主、五匹のゴブリンが見えたところで私は双剣の持ち方を逆手から変え、真正面に切っ先を向けた。
「【
両腕から噴き出す焔を纏い、ゴブリン達めがけて放った。
焔はあっという間にゴブリン達だけを焼き、辺りに焼け焦げた臭いが漂う。
しっかりと認識した『ギフト』の力を体感しながら、私は歩き出した。
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「はぁ……はぁ……」
そういえば、今まで魔力を使う機会がなかったから、こんな風にバンバン消費しながら戦うのは……正直キツイ。だが、四の五の言ってはいられない。
「早く、制御を完璧にしてここから出なければ……!」
そうだ、もたもたなどしていられない。こうしている間にも被害が出ているかも知れないんだ。
私は気を引き締めて、魔力をなるべく温存しつつ『ギフト』である【怒焔の矢】の制御にいそしんだ。
――それからどれくらい経っただろうか? 気が付くと、森を抜け開けた草原に出ていた。
「ここは?」
警戒を怠ることなく、周囲を見渡すと頭上から羽音が聴こえてきた。
「でかいな……」
そこにいたのは、二メートルは超えているだろう。大きなカブトムシみたいな魔物だ。その魔物は、私を認識すると大きな角で突進してくる。
「うぉ!?」
慌てて避けると、魔物はその勢いのまま再び上空へ飛ぶ。……多分だが、もう一度突進してくるだろう。
「あの硬さ……刃は通らんかもしれないな。なら!」
私は切っ先を魔物に向ける。『ギフト』を使っていてわかったのだが、どうやら標的を捕捉し、認識しなければ攻撃が不発に終わるようだ。
だから、私は動く標的をしっかりと捕捉しようとする。
「動きが早いな……。どうするか?」
そう思っている間にも、魔物は攻撃体勢を整えたらしい。またしても一直線に、私目掛けて突進してきた。
「今だ!」
私はその突進を近くにあった木へとジャンプして飛び移り、かわす。
「【怒焔の矢】」
思い切り焔で一気に焼く。魔物は熱さから逃れようとジタバタ蠢く。私はトドメを刺すため、もう一度捕捉し、追加で焔を放った。
しばらくしてようやく息絶えたらしい。真っ黒に燃え尽きた魔物が動かないことを確認すると木から降りた。
うむ……制御は大丈夫そうだ。
「さすがに疲れたがな……」
制御自体はなんなくこなせたが、どうにも魔力の消費が激しい。
「火力調整が上手くいっていないのかもしれないな……。どうしたものか……」
しばらく思案した私は、ある事を思いついた。
「なにか木人形になりそうな素材を集めて、火力の制御などをしてみるか?」
そう考えに至り、早速準備を始める。ルクバトや旅の道中で、鍛錬の一つとして作り方を教えてもらっていたのだ。だから、早くに作ることができた。
「こんなものか? 後は……やるしかない!」
私は切っ先を木人形に向け、『ギフト』を放つ。意識的に火力を小さめにして。
だが……今度は火力が小さすぎて、ロウソク程度の火しか着かなかった。
「存外、難しいな……?」
こうして、私は自分の火力との戦いに挑むのだった。