「だってそうだろう? 俺の人生を奪ったんだからよ?」
責めるような口調とは裏腹な、淡泊な声色にゾッとした。
「う、奪ったって……言われても……?」
恐る恐る口を開けば、イグナートが更に言葉を続ける。
「そうだな。お前は、ただ俺を生み出しただけだもんな?」
呼応するかのように
「だって、辛かったんだもんね? しょうがないよね?」
だけど……。
「二人とも、ごめんなさい。……向き合わなくて。本来のイグナートがどうなったのかとか、考えたことなかった。そして……深南として死んだことも、どこかで他人事だった。本当に、ごめんなさい……」
私は交互に二人へ向かって頭を下げる。何度も。しばらくして、二人の声が同時に聴こえてきた。
「やっと向き合ってくれたね」
「やっと向き合ってくれたな」
その言葉でハッとする。そうか……サジタリウス様が言っていた『向き合え』ってこういうことだったんだ……。
「……向き合う! だから、イグナート! 深南! あなた達のことを教えてほしい!」
力強くそう言うと、気づけば二人が目の前に並んでいて、そこから淡い光が発せられ、私を包みこむように降り注ぐ。
入ってきたのは、イグナートの人生の記憶だった。
――アウストラリス山の奥にあった村で生まれたこと。
――両親と弟がいたこと。
――本来、イグナートは弓使いだったこと。
――村が魔物によって壊滅したこと。
――それが原因で家族も、友人も全てを失ったこと。
――唯一生き残り、あてもなくさまよっていたこと。
――そして、『
初めて知る……いや、『思い出した』記憶に胸が苦しくなるが、それから逃げる事などしない。ありのまま受け入れてみると、ストンと胸に落ちてきた感覚がする。
「ふぅ……。待てよ? イグナートとしてはいいが、深南としては……両親はどうなったんだろうか?」
そうだ。今まで逃げていたから思い至らなかったが、深南としての人生が終わった時、両親は健在だったはずだ。……二人はどうなったんだ?
そう思い、目の前に浮いている二枚の鏡を見やると、深南の両親が映しだされる。
……二人の目は、悲しみに濡れていた。静かな食卓。二人だけの無言の時間。でも……。
「私が座っていた席に……食事があるな……」
そう。丸テーブルにいつも三人で座っていたのだが、そこにはもういないはずの、私の分の食事まで置かれていたのだ。
二人の思いに触れ、自然と涙が溢れてくる。ごめん……逃げてばかりで。先に死んでしまって……。
『イグナート』と『深南』。二人分の人生。失ってから……気づく、家族への想い。あぁ、そうか。私は家族が好きだった――。
一気に入ってきた二人分の人生の記憶と思いに、混乱と後悔……色々な感情がごちゃ混ぜになる。でも、それでいい。それが罰なのだろう。逃げ続けてきた私への。
〔そろそろよさそうね?〕
『全てを見た魔女』さんの声に、私は涙を拭い頷く。
すると、目の前が暗転し……気づけば、またしても白い空間にいた。
「どうだったかしら? 自分と向き合ってみて」
試すようなでもどこか優しい声色に、私はルクバト式の挨拶をする。
「『全てを見た魔女』よ、感謝します。
素直にそう礼をつげると、『全てを見た魔女』は口元に手をやる。
「ふふふ、いいのよ? お礼は、身体で返してちょうだいな?」
彼女の言葉に私は再び頷いた。
「その依頼、果たして見せます。それで、私の仲間達はどうしたのですか?」
そうだ。リュドヴィック卿にオクト、ブリアック卿にアンドレアス殿の姿はここにはなかった。彼らはどこに?
その疑問に『全てを見た魔女』が答えてくれた。
「彼らは彼らで、修行してもらっているわ。あのままじゃ、死んじゃうもの」
――あっさりと告げる彼女に不快感はなく。
正しく向き合い新生した