あれから二週間。
メディアの町が『パビルサグ』に襲撃されることもなく。
また、ヌンキでの救護活動も進んでいるとのことで、私達は準備期間の四日間を終えた。
「準備は良いであるな?」
アンドレアスさんの掛け声に、頷く。
今、私達はアウストラリス山の登頂用の入り口にいる。馬達と私達は雪山装備だ。
アウストラリス山は雪山だからだ。
標高なんかは計測されていないらしくて不明だけれど、かなり高くて入り組んでいるらしい。
ここに来るまで、なぜか魔物にも『パビルサグ』にも襲われることがなかった。だからこそ。リュドヴィックさんは『何かある』と訝しんでいたし、ブリアック卿とアンドレアスさんも警戒していた。
なので、私も気合を入れ直す。横目でオクト君を見ると、彼もまた、気合を入れているらしく、両手で顔をパシパシと叩いていた。それに苦笑すると、私達は山を登り始めた。
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最初は順調だった。だけれど、どんどん雑魚とはいえ魔物達が襲ってくるようになって……私達は思うように、進めずにいた。
少し進んでは、魔物を倒し、そして休憩して、進んで……その繰り返し。
「くっそ! こいつら邪魔だぜ! ぜんっぜん進めねぇじゃねぇかよ!」
オクト君がい苛立ちながら、目の前にいる一つ目の青い球体に羽の生えた魔物を縦に、真っ二つにする。
「それほど、この山は汚染されているということだろう! 抜かるなよ!」
リュドヴィックさんにそう言われて、警戒心をあげる。
私も苛立ちを隠せなくなってきていた。雑魚に絡まれている場合じゃないのに! 早く!
……気持ちばかりが焦る。
双剣で切り裂きながら道を開き、進んで行く。今度は突然の吹雪が襲ってきた。
「ああー! もう! 頼むから、私達の邪魔をしないでくれよ!」
私がそう叫ぶと、コダマのような反響音が響く。
その時だった。
〔あらあら、大変そうねぇ。手伝ってあげましょうか?〕
ややハスキーな、女の人の声が風に乗って聴こえてきた。
「な、なんだ!?」
「敵か?」
「何者であるか?」
「警戒」
オクト君、リュドヴィックさん、アンドレアスさん、ブリアック卿が警戒を強める。
この声は、みんなにも聞こえている? なら、サジタリウス様じゃない! けど、サテュロスでもない? なら、誰?
思うや否や、私達は猛吹雪に包まれ意識を失った。
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「うぅ……?」
目を覚ますと、そこは白い空間だった。当たりを見渡しながらみんなの名前を呼ぶ。
「リュドヴィックさん! アンドレアスさん! ブリアック卿! オクト君!」
だけれど、誰からも反応がない。というか、前後左右の感覚がない。段々と不安になってきた頃。
突然目の前に、黒い魔女帽子に露出度の高い黒いドレスを着た、銀髪のグラマラスな美女が現れた。
「いらっしゃい。男前なのに可愛らしい『勇者』様?」