「アルベリク団長、お忙しいところ恐れ入ります」
リュドヴィックさんが一礼して、教会で見たのと同じポーズする。……騎士団の敬礼? とかそんな感じなのかな?
「いいや、構わないさリュドヴィック卿。それで急用というのは、そこにいる彼のことについてだと思ったんだけど、どうだい?」
「その通りです。この者について、説明をさせて頂きたく存じます」
「なるほど? 私の勘は当たったみたいだね」
先程感じた気品あふれる笑みを浮かべると、私の方へ視線を向けて来た。緊張で思わず身体が強張る。勇気を出して私は声を発した。
「は、はじめまして! えと、イグナート・アウストラリスと申します!」
必死に挨拶をすると、リュドヴィックさんと美形さんの視線が刺さる。え? なんかおかしい事した? ってあ! お辞儀しちゃったからか!
気付いた時にはもう遅くて、美形の男性が優しく微笑みながら語りかけて来た。
「はじめまして。私は『アルベリク・シャレット』、ルクバト聖騎士団の団長をしている者だよ。よろしく。随分と珍しい挨拶の仕方だけれど? リュドヴィック卿、説明をお願いできるかな?」
「はい、勿論です団長。では、僭越ながらここまでの経緯を説明させて頂きます」
リュドヴィックさんがアルベリクさんって言うのね? いや、団長さんに失礼かな? とにかく、今の『私』の事を説明してくれた。
『記憶喪失』なこと、『勇者』の可能性があること、『ギフト』を持っていること等々。
ひと通り話を聞き終わったアルベリク団長さんは、静かに息を吐いた。
「リュドヴィック卿。状況はわかったよ。ありがとう」
「とんでもございません」
アルベリク団長さんは額に左手をあてると少し困った顔をした。
「しかし、『勇者』とはね……。さて、どうしたものか……」
私のことで悩んでいるんだよね? なんか申し訳ないな。
というか今更だけど、リュドヴィックさんとアルベリク団長さんって名前似てない? 間違えないように気を付けないと……。
失礼なのは、嫌だから。
私の心情とは裏腹に、通信室内は妙な緊張感に包まれていた。それほど、この世界にとって『勇者』は特別なんだろうか?
「うーむ。リュドヴィック卿、彼の戦闘力はいかほどかわかるかな?」
「流石に、まだ出会ったばかりですので詳しくは……。ただ、見立てになり恐縮ですが、素人同然ではないかと思われます」
リュドヴィックさんに言い切られてしまった。まぁそりゃそうなんだけどね……だって『私』は戦闘なんてしなくていい『前世』だったんだし。
「ふむ。だとしたらそうだね……。まだ『勇者』と確定したわけではないけれど、我が騎士団員として迎え入れるというのが、いい落としどころだと思うのだけどどうかな?」
アルベリク団長さんの言葉に、リュドヴィックさんも深く頷いた。
「同意見でしたアルベリク団長。では、ルクバトまで彼を連れつつ戦闘力を見て、必要であれば鍛錬を行います。道中で死なれてはかないませんから」
「うん。そうしてくれるかな?」
「了解致しました」
それからは、私のこと以外の話をして通信が終わった。私はただ二人のやり取りを見守る事しか出来なかった。だって、話している内容全然さっぱりなんだもん!
通信が終わると、リュドヴィックさんが私の方へ視線を向けると声をかけてきた。
「さて。正式に許可が降りた以上は責任を持つ。お前を立派な騎士にするためにな。……だから、早速だが戦闘力を見させてもらう。いいな?」
圧が強すぎて、私は思わず萎縮してしまう。だけど、そんなのお構い無し。リュドヴィックさんに連れられて、私達は通信室を後にした。