目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第4話 神官様からのお言葉

 のどかなポーリスの町を、真剣な表情をしたリュドヴィックさんとおそらく嫌そうな顔をしているであろう私が歩く。


「あ、あの〜?」


 なんとも言えない空気に耐えきれず、勇気を出して話しかける私の方へリュドヴィックさんは歩みを止めて顔を向けると、低い声で私に向かって訊いてきた。


「お前、自分が置かれている状況がわかっているのか?」


 近い! 近すぎますって!


 そんな事を思っている場合じゃないと理解し、私は答えた。多分というか数秒遅れたのは仕方ないよね?


「あ、ハイ。記憶喪失なんですよね?」


 こうなったらもう『記憶喪失』で通すしかない。腹を括った私は、もう後戻りしない事にした。そう、『私』は『記憶喪失』の可哀想な人です~!


「その、いきなり記憶喪失って言われても実感が湧かなくてですね?」


「なるほど? それもそうか」


 納得したのかリュドヴィックさんは前に向き直り、再び無言で歩き出してしまった。置いて行かれないよう、私は慌てて着いて行く。あの、もう少し歩く速度落としてもらえませんかね?


 ****


「よくぞいらっしゃいました。お話は、お医者様から伺っております。貴方様がリュドヴィック様、そして、そちらのエルフ族のお方がイグナート様ですね?」


 教会に着くや否や、若くて綺麗なブロンドの髪をした女性の神官様が出迎えてくれた。

 リュドヴィックさんは右腕を前にして一礼すると丁寧に名乗る。


「はい。自分がリュドヴィック・エアラです。そして、この者が件のイグナート・アウストラリスです。ってお前は何をしているんだ?」


 教会の綺麗さと神秘的な雰囲気に私は思わず見とれて視線をあちこちに向けていたのだ。

 やばい! そう思い、慌てて弁明する。


「あ、いや、この教会、雰囲気いいですね〜はは……すみません! イグナートです! よろしくお願いします!」


 危ない! 見とれている場合じゃないよ私! リュドヴィックさんの真似をして挨拶をすると、神官様は口元に両手をあてる。


「あらあら、お話通りのようですね。早速観てみましょう。イグナート様、どうぞこちらへ」


 神官様に導かれるまま、私は教会の中央にある水晶の前に連れて行かれた。

 神官様は、水晶に両手をかざすと私に声をかけてきた。その声色はとても優しくて、聞き惚れそうだった。


「では、イグナート様。水晶と私の間にどちらでも構いません。手をかざして下さいませ。……イグナート様?」


「は、はい!」


 焦りながら私は、言われた通りに右手をかざす。水晶が淡く輝き出して綺麗だ。


「わっ、すご! 綺麗~!」


 そんな私に、神官様は優しく微笑むと呪文を唱えだした。

 頑張って聴いてみようと思ったけど何を言っているのかさっぱりすぎて、私は聴くのを諦めた。しばらくして、神官様の口から小さく驚きの声が上がって私も驚いてしまった。身体をびくつかせた私を見て、神官様が静かだけど真剣な声色で口を開いた。


「なんということでしょう……」


「あ、あの?」


 困惑する私を真剣な眼差しで見つめると、神官様は離れたところで待機していたリュドヴィックさんを呼んだ。


「どうされました? 神官様」


「リュドヴィック様。このお方は! 『勇者』のお力をお持ちでございます! もしかしたら、記憶喪失もそれが原因かもしれません」


 神官様の言葉に、リュドヴィックさんが目を見開いて驚いていた。その光景を見ながら、私は船の中で聞いたあの声を思い出していた。


《目覚めし『勇者』よ。貴殿には、これよりこの『サジタリウス』を救ってもらう》


 一方、そんな事なんて知らない神官様とリュドヴィックさんは真剣な表情で話している。


「……ということは、彼には『ギフト』があるということですか?」


「ええ、間違いありません」


 二人の会話で私はふと違和感に気づく。『ギフト』ってなに?

 その瞬間、あの声が頭の中に響いてきた。


《貴殿には、この世界の者にはない能力、通称『ギフト』が備わっておる》


「へぇ~! って、えっ?」


 『ギフト』って贈り物? ってこと?


 何が何だかわかっていない私を、神官様とリュドヴィックさんが神妙な顔で見つめて来たので、どうしていいかわからず私はひたすら戸惑うことしか出来なかった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?