(俺を癒してくれるのは『クミちゃん』だけだよな〜。グフフ♡)
陣生は気持ち悪〜い笑顔でスマホで、子供の頃から大好きだった1980年代に放送された魔法少女アニメ『マジカル☆クミちゃん』の動画を観ながら自宅付近の住宅街をフラフラと歩いていた。
千鳥足の上に歩きスマホの時点で迷惑行為なのに、45歳のオッサンが魔法少女アニメをニヤニヤしながら観てる様は、すでに犯罪行為に等しかった。
陣生もシラフであったら、こんな行為はしなかったが、特に今日は家と職場でストレスが溜まってた事もあり、そこまで頭が回らなかったのである。
[ねえ!そこのオジサン!]
(何だ今の声?アニメの台詞じゃないよな?)
突然聞こえた〝少女〟の声に驚いた彼は、動画を停止して辺りを見渡した。
しかし、少女はおろか、周りには誰もいない。
(幻聴?酔いのせいかな?)
そう思った陣生は、再び自宅に向かって歩き始める。
[どこ行くのオジサン?そっちじゃないよ!こっち!右向けー右。さっさと歩く!グズグズしない!]
「は、はいー!」
再び聞こえた少女の声に陣生は直立不動して、その指示に従って歩き始める。
〝その声〟には逆らえない〝何か〟を陣生は感じた。
……10分後。少女の声に誘導された陣生は、近所の〝廃墟〟の庭園内の古井戸の前にいた。
元々廃墟であったが、30年程前から〝少女の幽霊の声が聞こえる〟という噂が立って以来、心霊スポット扱いされ人が近寄らなくなってしまった。
その声の主は、封印され古井戸に落ちたジュリアナである。
「ハァハァ。歩き回ったから
[よく来たね!それじゃ、古井戸の中にスポーンと飛び込んじゃって!オジサンの
「こ、この中に飛び込めだって?そんな事出来るわけ……うぷ!ダメだ!
陣生は、古井戸に
古井戸の中に降り注いだ
ええーい!綺麗な書き方をして誤魔化そうとしても無理がある!
要するに、
[うぎゃああー!これゲロだ!ホカホカの
〝バビューン〟
古井戸の中から〝ゲロ〟まみれの黒い玉が飛び出してきた。
「え?何これ?」
次の瞬間、黒い玉は陣生の股間を直撃した!
「おチーん!
哀れ陣生は、男だけにしか分からない痛みで悶絶してしまう。
[ワチキに、
少女の声が聞こえたと同時に、黒い玉は陣生の背中に吸い込まれるように消えていった。
「な、何だ!?うう!身体が熱い!」
陣生は、全身が燃え尽きるような熱さに加え、
「い、一体何が起こったんだ?」
全身の熱さと、
「うわー!こ、これが俺?マジかー!
廃墟の窓ガラスに映った自分の姿を見て、陣生は驚きの声を上げた。
……ここまでが前話冒頭に至るまでの経緯である。それでは、その続きを追っていくことにしよう。
「何で、俺がこんな姿に!?もしかして?」
彼(彼女)は、慌てて股間を触る。
[ちょっとオジサン!どこ触ってんの?犯罪よ!訴えるわよ!]
「
[そりゃ、ワチキの体になってるんだから
「い、一体、君は誰なんだ?」
陣生は、脳内に聞こえる少女の声に問いかけた。
[今頃、それ聞くかなぁ?ま、いいや!ワチキの名はジュリアナ!魔法界から来た〝
「吸血鬼な魔法少女?」
[ノンノン!吸血鬼じゃなくて、吸精鬼。血なんか不味くて吸えないよ。ワチキが
「いや、訳わからんのだがー!何でゲロ吐いただけなのに、魔法少女にされちゃってるのー!後、全身がゲロ臭いのはどうして?」
ジュリアナの説明は、端折り過ぎてたので陣生(魔法少女)には全然理解出来てなかった。
[多分、オジサンの
「ジュリアナちゃんだっけ?他人事みたいに言わないでよ〜。これからどうすんの?」
「アーハッハッハ!ようやく見つけたぞジュリアナ!マハラジャ様の封印を解くために来てもらうぞ」
そう言って陣生(魔法少女)の前に、突然中学生らしき女の子が現れた。
その少女は黒いゴスロリファッションに、左目にデフォルメされたドクロが描かれた眼帯を付けており、先端に黒くて大きなハートが付いてるステッキを持っていた。
……多分、〝悪役ポジションの魔法少女〟か何かである。そうに決まってるに違いない!
「え?誰?」
「フフ!ジュリアナよ!そんなにワタシ様の名前が知りたいか?マハラジャ様の忠実な下僕の魔法少女〝プリティ・プリプリメーラ〟よ!」
「自分で〝プリティ〟って言うと痛いな〜」
「う、うるさーい!」