-2025年〇月▲日 23時50分 都内某所の廃墟内庭園-
「うわー!こ、これが俺?マジかー!
廃墟の窓ガラスに映った自分の姿を見て、
数分前までの彼は、頭髪は薄くなり始め、下っ腹が膨らみ気味という量産型の45歳オッサンだった。
しかし、今では胸元に大きなリボンが結ばれ、白とピンクが入り混じったフリフリのドレスを着た金髪ロングヘアーの10歳前後の魔法少女へと変貌していたのである。驚くなというのが無理であろう。
[フー!オジサンが
彼の頭の中に、この体の持ち主である少女“ジュリアナ”の声が響く。
「手伝うって何を?」
〝プ~ン〟
その時、自身の胸元のリボンやドレスから
「う!
悪臭の刺激によって陣生(魔法少女)は、胃の中から逆流してくる〝ソレ〟……ぶっちゃけ言うと〝ゲロ〟を我慢できずに庭園にぶちまけた上に蹲ってしまった。
「く、苦ひい……」
のっけから〝ヒロイン(?)〟が、〝ゲロイン化〟しちゃったりしてる〝ヒドイン〟な有様!もはや地獄絵図なのである!!
[汚ーい!
「す、好きじゃありません……」
一体、陣生の人生に何が起きてしまったのか?
少し時間を巻き戻して、その経緯を追って行くことにする。
-同日 6時45分 火廊家の洗面所-
「オエエエー!」
起床直後、歯磨きをしていた陣生は、
決して嘔吐ではない!
(何で、オッサンになると歯磨きするだけで『オエ!』ってなるんだ?)
毎朝の事なので、それ以上深く考えず、陣生は食卓へと向かった。
「パパ、いつも『オエオエ』うるさいよ!マジ聞いてるだけで食欲無くすんだけど!」
トーストを口に加えながら次女の
「ごめん、つい出ちゃうんだよ。ところで燕、
陣生は、食卓に長女の
聞かなくても答えは分かっていたのだが、9歳の娘と僅かでも会話したい陣生は敢えて質問した。
「お姉ちゃん、とっくに朝ご飯食べて学校行ったよ!パパの加齢臭がキツイから一緒に食べたくないんだって。燕、昨日も同じ事言ったよね?」
「ああ、そうだよな。ハハハ」
予想通りの回答だったので、陣生は力なく笑った。
「あれ?ところで、パパの分の朝ご飯無いんだけど?おーい!
「何よ!忙しいんだから、気軽に呼ばないでよ!何の用?」
そう言って、明らかに不機嫌な顔をして台所から出てきたのは彼の妻である
「あ、あの俺の分の朝ご飯が無いんだけど?」
「……今、何と言った?
そう言った彼女の顔は〝修羅の者〟となっていた!よく分からん例えかもしないが、とにかくそれぐらい凄い表情をしていた。
多分、今の彼女ならば56枚くらいという中途半端に重ねたソース煎餅をワンパンで砕く事も可能だろう。
「え?俺、そんな事は言って……」
朝ご飯の事を聞いただけなのに、激怒し修羅の者へと変貌した妻の迫力に圧倒された陣生は勇気を振り絞って反論しようとした。
「ママ!燕も聞いたよー」
その時、場の空気を読んだ燕が詩乃夜の援護射撃をする。
「燕ちゃーん!嘘は言っちゃダメだよ!パパそんな風に育てた覚えありませーん!」
「ええーい!陣生のクセに往生際が悪いんじゃ!物価は高い!貴様の給料は安い!おまけに子供達のご飯は用意しなきゃならない!貴様らが出かけた後には、
「あんざ……詩乃夜先生!!お菓子買う余裕があるなら……朝ご飯が食べたいです……」
そう言って、陣生は〝バスケに挫折して荒れていた不良少年〟のように、膝をついてしゃがみ込んだ。
「そんなに食いたきゃ適当に外で済ませるがよかろう!毎月15000円も小遣い渡してるだろうが?今日は貴様の唯一の存在意義である給料日だ!とっとと会社行かんかーい!」
「は、はい!行ってきまーす!」
これ以上話すと生命の危険を感じた陣生は、逃げるように家を飛び出した。
家族である2人の娘と妻の陣生に対する態度は、
-同日 19時45分 都内某所の居酒屋店内-
給料日という事で、この夜は陣生が社畜として日々命を削る職場〝ガラクタ商事〟営業部の懇親会という名の飲み会が開催中だった。
ガラクタ商事は、現代では珍しく給料が振り込みではなく、手渡しである。
そのため、帰りが遅くなると詩乃夜が激怒するので、本当は欠席したかったのだが(飲み会も仕事のうち)と長年の社畜生活で刷り込まれた悲しい習性には逆らえなかった。
「うおおおー!朝も昼も食ってなかったから、食いまくってやるー!」
割り勘という事もあったので、元を取るため陣生は炒飯、焼きそば、コーンバターを貪り食っていた。
「火廊君!食べてばっかいないで少しは飲みなさい!」
そう言って、隣に座ってきたのは彼の上司であり営業課長の
手書きだと絶対に書き間違えそうな名前をしてる彼女は、1年前にライバル企業の〝ポンコツ商会〟を辞めてガラクタ商事に再就職してきた。
バリバリのキャリアウーマンのエリーザは、あっという間に営業部の課長に昇進。20歳近く年上の陣生を〝
「あ、課長。い、いや、今日は妻が待ってるので、お酒は……」
「な~に~!?上司の酒が飲めないっての!いいから、飲みなさいよ!ホラ!イッキね!」
すでに酔っていたエリーザは、グラス限界近くまで注がれた日本酒を彼に差し出す。
「す、すみません。本当に今日は」
「あ~ら?
エリーザの目つきが変わったのを陣生は見逃さなかった。
「い、いえ!頂きます!」
時代錯誤のアルハラであるが、〝
陣生が、エリーザに逆らえないのは単なる上司と部下の関係だけではない。
一度、年下のくせに、あまりにも上から目線な態度に本気で怒った彼は彼女と喧嘩になった。
しかし、人は見た目によらぬもの。エリーザは可愛らしい顔をしてるがコマンドサンボの達人だったのだ!
陣生は、そんな彼女の技で
ちなみに詩乃夜は、エリーザから治療費+慰謝料(20万円)を受け取ると『これからもウチの主人を上司としてビシバシ鍛えてやってくださいね!ホホホ』と笑って済ませてしまったのである。
この時ばかりは、陣生も(お金って怖えー!女って怖えー!)と3日間便秘になるくらい戦慄しちゃったのだ。
「「「それじゃ、お疲れ様でしたー!また明日」」」
22時過ぎに飲み会は終了となり、居酒屋前で解散。
「ちっ!どいつもこいつも俺をバカにしやがって~!なめてんじゃねーぞ!」
店を出た陣生は泥酔しており、酔っ払いキャラ定番の独り言を呟きながら千鳥足で自宅に向かう。
だが、その途中に〝史上最低最悪な