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クラスで一番の美少女と付き合う事になりました(仮)



 いや、もちろん嬉しくないわけじゃない。むしろ嬉しすぎるくらいだ。ずっと片想いしていた相手からいきなり告白されたんだから当然である。


 だけどそれ以上に戸惑いの方が大きかった。何しろ相手はあの如月さんなのだ。誰とも関わろうとせず、常に一人でいることを望む孤高の少女である彼女が僕なんかのことを好きになるはずがないと思っていたから。


 それに何より、どうして今になって急にこんなことを言い出したのか分からなかった。ついこの間まで全く接点がなかったというのに、なぜ今更になってこんなことを口にするのだろうか。僕にはそれが不思議でしょうがなかったのである。


 そんなことを考えていたせいか、いつの間にか返事が遅れてしまっていたようで、彼女は少し不満げな表情を浮かべながら言った。


「返事は?」


 その言葉にハッと我に帰る僕だったが、それでもすぐに返事を返すことは出来なかった。


 何故なら僕には彼女に尋ねなければならないことがあったからである。


「き、聞きたい事が、あるんだけども……」


 僕が恐る恐るそう切り出すと、彼女は黙って続きを促すように頷いた。そんな彼女に対して僕は尋ねる。


「えっと……どうして、僕なの? 何でその……急に僕と付き合いたいだなんて、そう思ったの?」


 僕がそう尋ねると、彼女は無表情のまま答えた。


「別に理由なんてない」


「え?」


 僕は彼女の答えを聞いて拍子抜けしてしまった。てっきり何か理由があると思ったのに。というか、それなら尚更分からないことがあるじゃないか。そう考えた僕はさらに質問を続けることにした。


「そ、それじゃあ、なんで僕を選んだの? そもそも、他にもたくさん男子がいる中で、どうして僕を選んだの?」


 その問いに対する答えは簡潔なものだったけど、だからこそ僕にとってはより理解不能な境地へと追い込まれることになる。


「鳥よけ」


「……は?」


 意味が分からず首を傾げる僕を他所に、彼女は淡々とした口調で説明を始めた。


「私、ちょっと困ってるの」


 唐突にそんなことを言い出す如月さんに、ますます混乱する僕。一体なにが言いたいんだろうと思っていると、彼女は言葉を続けた。


「みんなから告白されるの。自分と付き合って欲しいって」


 それは何となく分かる気がした。如月さんはこれだけ可愛い子なんだから、そりゃあモテるに決まってるよね。実際僕も一目惚れしてるわけだし。


 そんなことを考えている間にも、彼女は話を続けた。


「でも私はそういうのに興味ないし、誰かと付き合うつもりもないから断ってる」


「う、うん」


 じゃあ、何で僕に付き合って欲しいと告白をしてきたんだろうか。その疑問が頭に浮かんだが、今はとりあえず彼女の話を聞くことにする。


「だけど、最近多くて困るの」


「え?」


 僕が思わず聞き返すと、彼女は小さくため息をついて言った。


「毎日の様に誰かが私に告白してくるの。もううんざりする」


「あー……」


 なるほど、そういうことか。僕はようやく彼女の言わんとしていることが分かった気がする。要するに彼女が困っているというのはこういうことなのだろう。


 つまり、毎日のように誰かに呼び出されて告白されているのでいい加減辟易していると、そういうことなのだろう。


 如月さんからすれば付き合う気もないのにそうしたことで呼び出され、そして時間を取られることがこの上なく迷惑なのだと思う。


 ただでさえ一人でいることを好む彼女なのだから、そうした現状は好ましくない。だからこそ、その原因を取り除けば問題は解決すると、如月さんは考えたわけだ。


 そしてその方法というのが、偽装でもいいから、彼氏という存在をでっち上げるという手段なのだろう。


「だからね。恋人を作ってしまえば、そういう煩わしいことから解放されると思ったの」


「……それで、その役目が僕ってこと?」


 僕の言葉に彼女はこくりと頷く。そしてそのまま続けた。


「だから、鳥よけ。蓮くんには私に寄ってくる男子を追い払う為に、私の彼氏役になって欲しいの」


 要約すると、如月さんが僕に求めているのは、他の男子を寄せ付けないようにするためだけに、僕と偽の恋人の関係を騙れということだ。どうやら彼女にとって恋愛とは邪魔でしかないらしい。まぁそれもそうだろう。


 だって彼女は人嫌いだし、他人に興味がないのだから。いくらモテようとも興味がなければ意味がないということだろう。


 しかしそうなると一つ気になることがある。それは何故僕なのかという点だ。


 他にいくらでも適任者はいるはずだろう。それなのにわざわざ僕を選ぶ理由が分からないのだ。そんなことを考えていると、彼女が口を開いた。


「私が選んだ理由は簡単だよ」


 そう言うと、彼女はじっと僕の目を見つめてきて言うのだった。


「蓮くんなら、私を守ってくれそうって思ったから」


 ……どういう意味だろうか? 彼女の意図が全く読めなかった僕は首を傾げたまま固まってしまう。


 そんな僕の様子を見た彼女は、数回ほどまばたきをした後で、続けるように言った。


「君は真面目そうな人だから。私の話でもちゃんと聞いて、受け入れてくれるだろうなってそう思ったんだよ」


 そう言って如月さんはほんの少し、本当に小さくだけど、僕に向かって微笑んでみせた。その瞬間、僕の心臓が大きく跳ね上がるのを感じた。


 初めて見せる無表情や不機嫌そうな顔とは違う、如月さんの笑顔に見惚れてしまったのだ。


 普段のクールな雰囲気とはまるで違う、柔らかい微笑みに心を鷲掴みにされたような衝撃を受けてしまったのである。


 だけど、僕が呆然としている間にもその時間は終わりを告げることになる。なぜなら次の瞬間には、いつもの無表情に戻ってしまったからだ。


 正直、もう少し見ていたかったと思ってしまったけど、流石にそれを口に出す勇気はなかった。それからしばらく無言の時間が続いた後、やがて彼女は再び口を開いて言った。


「どう? 引き受けてくれる?」


 その問いに僕は迷わず即答する。考える必要すら感じなかったからだ。


「……うん、分かったよ」


 こうして僕と如月さんの関係は始まったのである。


 果たしてこれがどんな結末を迎えるのか、この時の僕にはまだ知る由もなかった。






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