「さあ、力を貸してもらうぞ!」
指輪をはめると、黒いオーラが体を覆う。「暴食」を倒すのにかける時間は一分が上限だ。それ以上だと、抜け落ちる記憶の量が膨大になるはず。本当なら指輪に頼らなくても済めばいいのだが。
「オーラよ、右手に集まれ!」
右腕を上げつつ、オーラを操る。暗雲のようなオーラは巨大な拳の形になる。これでいい。
腕を思い切り「暴食」の頭に叩きつける。が、奴も頭にオーラを集めて盾を作り上げる。大丈夫、ここまでは作戦通りだ。圭、頼むぞ!
「晴人、下がれ!」
圭は狙いを定めると、モンスターの胴体に銃弾をぶち込む。「暴食」の体から、人の血と違う色の体液が飛び散る。顔にへばりつくが、気にする暇はない。
今、奴の守りは頭上のみだ。
「とどめだ!」
腕のオーラの形を剣へと変える。これなら倒せる。
鋭い剣を「暴食」の大きな口に突き刺す。相手は口を閉じて腕をかみ砕こうとしてくる。問題ない。こっちのスピードが上回ればいいんだ。
剣をねじり込んで、さらに抉りこむ。
悲鳴を上げるが無視する。今まで多くの人を苦しめたんだ、これは当然の報いだ。
しばらくすると、「暴食」は沈黙し、重力に引っ張られて体が崩れ落ちる。
「どうやら、作戦は成功したらしいな」
汗を拭いながら圭が近寄る。
「……ああ。なんとかな」
オーラがすっと体から抜け落ちた瞬間、膝ががくりと崩れそうになる。視界が白く霞む。呼吸も浅い。胸の奥で何かが失われた気がした。
「晴人!」
里帆の声が近づく。駆け寄ってきたその顔に、安堵と恐怖が入り混じっている。
「無事……なの? 覚えてる? 私のこと、分かる?」
手を握られる。ぬくもりが伝わってくる。名前を聞かれて、すぐに答えられるかどうか……怖かった。
「……里帆、だろ?」
微笑むと、里帆の目に涙が溢れた。
「よかった……!」
抱きしめられながら、そっと目を閉じた。指輪を使った時間は短かった。これなら、すべてを忘れることはない。――たぶん。
その時だった。遠くに見たことのない姿を見かけたのは。それは、図体がでかく毛むくじゃらで、「生きていることさえ面倒くさい」といった立ち振る舞いをしている。
俺の直感が告げた。こいつが次の大罪「怠惰」に違いないと。
「暴食」との戦いで力を使い果たしたばかりで連戦は無理だ。奴がどこで何をするかは分からない。ただ、「怠惰」を早く討伐しなくてはならない事実に変わりはない。
奴をどう攻略するか、作戦を練らなければならない。そうしないと記憶が次々と抜け落ちていき、最後には自分の名前すら忘れるかもしれない。そうなった時、俺は生きていると言えるのだろうか。もしかしたら、七つの大罪と同じように一種のモンスターになってしまうかもしれない。里帆や圭を殺しかねない恐ろしいモンスターに。