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ロストメモリーと七つの大罪 ―世界を守るため、君を失う―
ロストメモリーと七つの大罪 ―世界を守るため、君を失う―
雨宮徹
現代ファンタジー異能バトル
2025年04月20日
公開日
1万字
連載中
祖先の蔵から見つけたのは、一冊の古文書と、錆びついた指輪だった。 指輪は力を与える。しかし、その代わりに、大切な「記憶」を奪っていく。 同時に現れた「七つの大罪」の名を持つモンスターたち。 海堂は世界を守るため、少しずつ、自分を失っていく。 それでも、忘れたくない「誰か」がいた――。 登場人物 ・海堂 晴人(かいどう はると) 記憶を代償に指輪の力で戦う主人公。かつての記憶が、自らの武器にもなる。 ・柏原 里帆(かしわばら りほ) 晴人を健気に支える恋人。彼の忘れてしまった思い出を、誰よりも大切にしている。 ・小野寺 圭(おのでら けい) 晴人の幼馴染で警官。非現実の中でも地に足をつけ、晴人を現実へと繋ぎとめる存在。

第1話 崩れゆく日常

「人は七つの罪を乗り越えし時、神に至る。

“傲慢”が現れし時、試練は最終となる」


 俺が手に持ったカビっぽい古文書にはそう記されていた。七つの大罪。単語自体は知っているが、試練とはなんだ? それに「神に至る」という言葉も気になる。


 おまけに、古めかしく怪しげな光を放っている指輪までセット。特撮でヒーローが変身のために使いそうな代物だ。あいにく、その方面には興味がないが。


 ……どうやら、ご先祖様は今で言う厨二病だったらしい。それも重度の。


「晴人、いつまで蔵にいるの?」


 冷たく薄暗い蔵の外から里帆の声が聞こえる。


「今、出るよ。こんな埃っぽいところ、これ以上いたくないからね」


 あくまで金欠だからお宝がないか探していただけだ。こんなところに長居は無用。幽霊が出そうでゾッとする。


「それで、何か見つかったの?」


「いいや、まったく。分かったのは、ご先祖様は頭が悪いってことだけさ」


 服についた埃をパンパンとはたく。こうなれば、地道に稼ぐしかあるまい。


「でも、急にお金が必要だなんて、どういうこと?」


「それは、えーと」


 里帆の誕生日プレゼントのためとは言えない。「奨学金を少しでも返すためさ」と誤魔化してみる。少しばかり心が痛むが仕方あるまい。


 里帆が、じーっと見つめてくる。まるで、真意を見抜こうとするように。顔に出やすい俺のことだ。バレてしまったかもしれない。


「まあ、いいわ。それで、これは何なの?」


「ああ、古文書と指輪か。いや、古文書には『神に至る』だとか書いてあって気になったからな。それで、こっちは古文書の上に丁寧に置いてあった。きっと、セットなんだろうさ」


 この指輪、俺の指にぴったりだ。趣味には合わないが、はめてみるのも悪くはない。


「晴人、それはめるの? なんだか、嫌な予感がするんだけど……」


「心配しすぎだよ。まさか、呪われるとでも思ってる?」


「そんな非科学的なものは信じないわ。でも、女の勘がダメだって告げてるの」


 勘も非科学的なものの部類に入る気がする。だが、否定すれば間違いなくビンタが飛んでくる。付き合って二年でそれは学習済みだ。


 指輪をはめた途端、頭がスッキリとした。なんだか、寝起きの時の冴え渡った感じに近い。この指輪が原因か? それに、体の表面に黒色のオーラのようなものが出ている……気がする。


「晴人、どうかしたの?」


「いや、なんでも」


 指輪を外そうとするが、なかなか抜けない。


「くそ! 一生取れないなんてことは勘弁だぞ」


 指輪の表面で滑った右手が蔵の入り口にぶつかる。


 痛い……はずだった。だが、目の前にあるのは、ひびが入った漆喰の壁だった。嘘だろ。


「大丈夫!?」


「ああ、問題ない」


 腕に問題ないが、古びた蔵にとっては致命的かもしれない。そんなことはどうでもいい。


 慎重に引き抜くと、今度はあっさりと指から外れた。


「……? なあ、里帆。この指輪は俺へのプレゼントか?」


 里帆は怪訝な表情をしている。どうやら、違うようだ。


「何言ってるの? 晴人が蔵から持ち出したじゃん」


 俺が蔵から持ってきた……? そんな記憶ないぞ。だが、里帆が嘘をつくとは思えない。きっと、そうなんだろう。


「ああ、そうだった」


 適当に話を合わせながら、指輪と古文書を懐にしまいこむ。


 あとから圭に見せてみるか。あいつの家は、骨董屋だ。これがどんなものかヒントがもらえるかもしれない。警察官の圭のことだ、すぐに会えるとは思えないが。


「一度、家の中に戻ろう。春とはいえ、最近は暑いからな」


 せっかく家に来てもらったんだ。映画鑑賞でデートも悪くはない。





「それで、どんな映画にする? ホラー? アニメ?」


「ホラー一択だな」


 里帆の好みはホラーだ。ここは合わせるべきだろう。それに、外は暑かった。ホラーでひんやりとするのも悪くない。


「じゃあ、決まりね!」


 里帆がテレビをつける。


「……ですね」


「ここ最近は都内のスーパーやコンビニから食料が消失しています。これは、何を意味するんでしょうか。丸本さん」


 ニュースで最近の異常事態の話を取り上げている。食料の買い占めの理由は分かりきっている。この前、大きな地震があったからに違いない。


「それにしても、おかしいわよね。地震が起きたからって、スーパーで買い占めをしても意味ないわ。非常食じゃなきゃ」


「里帆の言う通りだな。まあ、こういう時は誰しも冷静な判断ができないんだろうさ」


 だが、一つひっかかる。地震の前から買い占めの兆候があった。それも若い女性を中心に。ダイエットが流行っている今、真逆をいくのは不思議ではある。


「さあ、映画鑑賞といこうぜ。ニュースの異常事態より、恐ろしいものが見られるからな」


 そう言いつつも、嫌な予感がする。そう、目に見えない恐ろしいものが近づきつつあるような、そんな予感が。

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