目を覚ました時、俺は草原に寝転んでいた。
「……へ?」
どこまでも青い空。春のような風。見知らぬ鳥のさえずり。
さっきまでいたフロアはどこだ? 上司の顔も、社畜仲間の阿鼻叫喚もない。
「ははっ、ついに俺、倒れて死んだのか……?」
力が入らない体を起こしながら、思わず苦笑した。
でも次の瞬間、胸がざわつく。
――いや、待てよ? ここはどこだ? なにこの草原。日本じゃなくない?
服装にも違和感があった。着ているのは地味なシャツでもスーツでもなく、なんか中世っぽいシャツとズボン。
それに、体が……やけに軽い? そして手が、やけに小さい。
恐る恐る地面に這いつくばって、水たまりのようなものを覗き込む。
そこには――見たことのない、見た目十歳くらいの少年の顔が映っていた。
「……え?」
あまりに見慣れない顔に、思わず声が出た。
だけどその少年も、まったく同じ動きで口を開く。
「……え?」
「うそだろ」
「マジで!?」
「おい、誰だよお前!!」
少年の顔が、必死に水面に向かって叫ぶ。
違う。これは違う。
どう見ても十歳前後、くりっとした目に整った顔立ち――完全に合法ショタ。
「ちょ、待て待て待て! この声、俺じゃん!?」
声変わり前のような高い声が、耳を刺す。
だが、ここまでくると認めるしかなかった。
異世界転移して、中身はそのまま、呪いで少年の姿になったのだ。
「いや、ちょっと! 神様!? お願いだから設定戻して!? 俺は成人男性! 酒もタバコも嗜む社会の犠牲者なんですよ!?」
悲鳴を上げて天を仰ぐ。だが、神は答えなかった。
そして――。
「――見つけました。神の器様……」
背後から聞こえた声に、体が凍りついた。
振り向くと、そこには一人の美女が立っていた。
絹のような白髪に、透き通る青の瞳。白と金を基調にした聖衣を纏い、うっとりとした表情でこちらを見つめている。
「えっ、誰……?」
「はぁぁ……その小さく神聖なお姿……まさしく、神の啓示通り……!!」
「いや説明して!? なにそのテンション!?」
美女はふわりと歩み寄ると、両手を胸の前で合わせ、拝むように僕を見つめた。
「私はクラリス・ラ=フィリア。女神教の聖女にして、あなたをお迎えする者……どうか、触れさせてください」
「いや無理無理無理無理、話が早すぎる!」
言うが早いか、彼女は膝をつき、僕の手を取った。
その瞬間――彼女の目が潤んだ。
「……あぁ……この肌触り、尊い……!!」
「やめてえええええ!!」
「はぁぁ……この柔らかさ、純粋無垢なる象徴……っ。これは……これは祈りです……」
「違うだろ!? どう考えてもアウトなやつだろ!!」
僕は必死に手を引っこ抜こうとするが、彼女の握力が異常に強い。
というか、何その目。完全に覚醒してるよね? 何かが。
「安心してください……これは『清め』ですから」
「だから何が!? 宗教って怖ッ!!」
しかも彼女、僕の指を両手で包みながら、なんかうっとりしてるし!?
どう見ても変なスイッチ入ってるし!?
「神の器様……この指先の形、サイズ、血色……すべてが聖典通りです。間違いありません」
「そんな細かい聖典あるか!?」
やばい、意味がわからなすぎて怖い。これは夢じゃないのか? そうだ、夢なら覚めてくれ!
「……あなたは、女神様から預かった神の器。この身を捧げ、癒やし、愛し、祈り尽くす使命を、私は背負っております」
「いや、初対面で言うセリフじゃねえよ!!」
叫んだ僕の声に、クラリスはピクリと反応した。
「……まさか、神の器様。お気づきでないのですか?」
「何がだよ!」
彼女はうっとりと、そして少し悲しげな瞳を向ける。
「あなたのその姿――呪いによって『少女や婦女子しか直視できない神聖な少年の容姿』となっております」
「説明が局所的すぎるし、最悪の呪いじゃねえか!!」
なんでそんな限定的な条件!?
婦女子特効ショタ!? ピンポイントすぎて逆に感心するわ!!
「この世界において、そのお姿は絶対なる信仰の象徴。見るだけで、母性と庇護欲と、そして歪んだ欲望が引き起こされるのです」
「最後のいらねえだろ!!!」
なんだよ、歪んだ欲望って。オマケみたいに言ってるけどメインディッシュだったよね!?
完全にアウトだよね!? この世界倫理観どうなってんの!?
「……なので、私の行動もすべては『自然な信仰心』なのです」
「それで済むと思うなよ!?」
僕が抗議の声を上げても、クラリスは微笑んだまま手を離してくれない。
むしろその笑顔が怖い。
「神の器様。今宵、聖堂にて『祈りの儀』を執り行います。準備は万端です」
「い・や・だ・っ!!」
全力で地面を蹴り、僕は彼女の手から逃げ出した。
――走れ! ショタの機動力を信じろ!!
変態聖女から逃げ切れなければ、俺の尊厳が危ない!!
「神の器様~! お待ちくださいませ~! まだ祝福の抱擁が済んでおりません~!」
「そんなイベントいらねええええ!!」
クラリスの声が、草原にこだまする。
僕は息も絶え絶えに叫びながら、異世界初日の逃亡をスタートさせたのだった。
平穏な暮らし? そんなもん、来るわけがなかった。
◇
走る。走る。とにかく走る。
「なんで……こんなに……速く走れるんだ俺!?」
自分でも驚くほど、草原をすいすい駆け抜けていく。
足は軽く、体は跳ねるように動き、息もほとんど上がらない。
「すげぇ……! これがショタのポテンシャル……!!」
成長痛も脂肪も社畜の肩こりもない、理想の運動性能。
見た目十歳の呪い――まさか逃走時に限ってはバフだったとは。
でもそれを喜んでる場合じゃない。
「神の器様~! どこですか~? ひざの上、温めておきましたよ~?」
背後から漂ってくるのは、あの変態聖女の甘い声。振り返る勇気なんてない。今、止まったら最後だ。
俺の尊厳は彼女の「清めの儀式」によって異世界の神話に刻まれてしまう。
「だれが温められてたまるかああああ!!」
草をかきわけ、石を飛び越え、小さな体で走り抜ける。
それなのに、後ろから聞こえるクラリスの足音が――まったく遠ざからない。
「なんで追いついてくるんだよ!? お前、見た目のわりに足速すぎだろ!!」
「聖職者たる者、祈りのためにはどこまでも参りますので……♪」
ああもう、声が近い!
なんでこの人、全力疾走中にそんな優雅な口調をキープしてるの!?
「お願いだから信仰に機動力を持たせないでくれええええ!!」
呼吸を整えながら、必死に地形を見てルートを探す。
幸い、森が近づいてきた。木々の影に紛れれば、ワンチャン撒けるかもしれない。
「このショタ性能で――逃げ切るしかねぇ!」
全力で森に飛び込む。枝をかき分け、小道を滑るように駆け抜ける。
枝が顔に当たるのも気にせず、必死に走る。
後ろからは相変わらず、やさしい足音とやばい発言が追ってくる。
「大丈夫ですよ……祝福の香油、ちゃんと低刺激性のを用意しましたから……!」
「絶対に塗らせるかああああ!!」
森を抜けた先に、ようやく開けた土地が見えた。
「……村、だ……!」
小さな畑と石造りの家々。井戸のそばで会話している村人たちの姿。
異世界ファンタジーとしては標準的すぎる光景に、僕は思わず泣きそうになった。
「助かった……やっと……普通の人間がいる……!」
あの変態聖女から逃げ切って、ようやく文明圏へ――。
そう思って村に足を踏み入れた、その瞬間だった。
「おや、見ない顔だね。……な、なんて……尊い……」
出会い頭に声をかけてきた中年女性が、俺の顔を見た瞬間、膝から崩れ落ちた。
「ちょっ……!? 大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄ろうとすると、彼女は震える手で俺に触れようとしてきた。
「まさか……こんな田舎にも『神の器』が……!! 見てください皆さん、あの頬の輪郭、まさしく聖典に記された……!」
「出たよ、聖典!!」
またかよ!
聖典ってどこにでも流通してんの!? 全国共通宗教か!?
僕のツッコミもむなしく、周囲の婦女子たちがぞろぞろと集まってきた。
おばちゃんも、お姉さんも、メイド服っぽい服を着た子も――全員、目が輝いてる。
いや、輝きの中に明らかに混じってるんだよ。「歪み」が。
「そのちんまりとした手のひら……やだ、尊い……!」
「帽子かぶせたら天使じゃない!?」
「ちょっとこれ、信仰とか関係なく欲が出てくるんだけど……」
「最後の人、もう隠す気ないな!?」
引くどころか、一歩ずつじりじりと距離を詰めてくる婦女子の群れ。
「や、やばい……この村、平穏じゃない……!!」
急いでその場を離れようとするが、すでに俺のまわりは取り囲まれていた。
「神の器様! こちらに絵描きの者がおりますゆえ、肖像画を一枚だけ!」
「布教用に、この愛らしい指先だけでも写させていただければ……!」
「いやああああああ!! 静止画でもアウトだろぉおおお!!」
僕は再び走り出した。
逃げても逃げても、信仰の手はどこまでも追いかけてくる。
「なんでだよおおお!? 俺、ただの社畜だったはずなのにぃいい!!」
草原から森を抜け、やっと辿り着いた村――。そこにあったのは、やっぱり「変態信仰」の世界だった。
◇
村から逃げ出し、小道を走って数分――僕は必死に息を整えていた。
「はあっ……はあっ……どこ行っても信仰、信仰、また信仰……! 俺の平穏、どこ……?」
木陰に身を隠し、静かに深呼吸する。
足音は聞こえない。婦女子の群れも巻いたっぽい。
「よし……このまま、静かに遠くへ……」
そう思って一歩踏み出した瞬間だった。
「――神の器様。やはりここにおられましたか」
「うわあああああ!?」
振り返ると、そこには――。
完璧な笑顔で、髪の毛ひとつ乱れていない聖女・クラリスがいた。
「……なんで無傷でいるの!? さっき全力疾走してたよね!?」
「神の導きがあれば、どこまでもお供します……さあ、儀式の準備は万端です」
クラリスはそう言うと、懐からなにやら布を取り出した。
「え、ちょ……それなに……?」
「『儀式用もちもちマット』です。神の器様をお迎えするために、特注のものをご用意しました」
白と金の縁取り。ふかふかの天使の羽っぽい装飾。
明らかにどこかの業者が、変態コンセプトで作ったに違いない逸品だった。
「他にもございます。『清めの香油』は、ラベンダーと聖水のブレンド……肌に優しく香り高く……」
「聖水って、え、どこ産!? 神様もっとちゃんと管理して!?」
「それとこちら、『祈りのタオル』……軽く濡らして、清めのマッサージに使用します」
「絶対やばいだろそれえええええ!!」
タオルを掲げるその姿はまるで天女のようだったが――言ってることと用途が完全にアウト。
「さあ、聖堂へ参りましょう。今宵は『祝福のひざまくら』から執り行う予定でございます」
「もうそのワードがやばいんだよ! 祝福するな!」
慌てて逃げ出そうとする僕の袖を、クラリスがそっとつかむ。
「安心してください。私、ふともももちゃんと温めておきましたから……」
「ホスピタリティが怖ぇんだよ!!」
もう無理だ。
このままじゃ尊厳が「敬虔な信仰」という名の下に削られていく。
――助けてくれ、誰か!
そのとき、近くの建物のドアがギイッと開いた。
「ん? 騒がしいのう。誰じゃ、聖女様の式典でも始まったのか?」
出てきたのは、ひげもじゃで腰の曲がった初老の男性――その手には謎の道具がびっしり詰まった工具袋。
まるでRPGの「怪しいおっさん」のテンプレのような彼は、僕とクラリスを交互に見て言った。
「ほう……これはまた、実に珍しいお客さんじゃ」
「あなた、まさか……!」
「ワシはベルン。この村で魔道具屋をやっておる。そこの少年、何やら面白い呪いにかかっとるの」
「呪いじゃなくて災難です! 助けてください! この人、清めとか言いながらヤバいことしようとしてくるんです!」
ベルンはくっくっと笑いながら、クラリスにぺこりと頭を下げた。
「聖女様、今日もご苦労さまですのう」
「こちらこそ、導きに感謝いたします」
普通に会話してんじゃねえよ!!
「さ、少年。こっちじゃ。店の奥で少し落ち着くとよい。変態――いや、聖女様からも距離が取れるじゃろう」
「言った!? 今『変態』って言ったよね!?」
クラリスが残念そうな表情を浮かべて、俺に手を伸ばそうとした瞬間――。
ベルンがスッと銀色の煙玉のようなものを地面に投げつけた。
「『煙幕玉・改』。ちとチーズ臭いが、視界はバッチリ塞げるぞい」
「チーズ臭いってなんだよ!? いらん情報多すぎだよ!!」
その隙に僕は、ベルンに手を引かれて店の奥へと逃げ込んだ。
◇
「……ふう、やっと……人間らしい空気……」
魔道具屋の裏部屋。
埃っぽくて狭いけれど、さっきまでの「祝福空間」に比べたら、天国だった。
木製の机と椅子。壁には無数の魔道具らしきアイテム。
「聖なる目覚まし石」とか「対憑依用ドアストッパー」とか、明らかにネタ枠っぽいのも混じっているけど、そこが逆に安心する。
「どうやら巻いたようじゃな。よくやったのう、ショタ青年」
「ショタ青年って言うな!」
「ほっほっほ、すまんすまん。だがその姿――まさしく神の器。聖典通りじゃ」
「うわああ! お前もかよおおお!?」
と反射的に叫んだが、ベルンは手を振って否定した。
「いやいや、ワシは信者じゃない。ただ昔、似たような呪いを研究していたことがあってな」
「……研究?」
「容姿と信仰のリンク現象。この世界では、信仰が現実に干渉することがある。特に神の器とされる存在は、その姿だけで人々の精神に作用を及ぼす」
「なんだよそれ、宗教とフェティシズムの融合体じゃん……」
「そうじゃ。信仰という名のフェティシズムは、時として物理法則を超えるのじゃ」
「言い切るな!」
ベルンは引き出しから古びた本を取り出し、パラパラとめくった。
「ほれ、このページ。『器の呪い』と呼ばれる現象……『対象が特定の女性にとって絶対的に神聖に見える』という状態を生む」
「……つまり、俺を見た女の人はみんな『なんかすごいスイッチ』が入るってことか?」
「うむ。母性、庇護欲、そして――歪んだ欲望」
「そこ毎回言う必要ある!?」
「重要なポイントじゃからな」
「いや、こっちのメンタル的に!!」
ベルンは肩をすくめると、おもむろに僕の顔を見つめた。
「お主の呪い、強度が尋常ではない。神の器の中でも極端な部類じゃな。聖職者が正気を保てるレベルじゃない」
「いや実際、クラリスさんの正気はもうとっくに溶けてたけど……」
「それでいて、実力も本物。あの聖女――ただの変態ではないぞ」
「『ただの変態ではない』って言葉が新しすぎるんだけど!?」
「聖女クラリス・ラ=フィリア。あれはこの国でも五指に入る大聖職者じゃ。治癒魔法も祈祷術も超一流。……だが、ある時期を境に、異様に器に執着するようになった」
「……それって、何かあったってこと?」
「かもしれん。何せあの信仰心、理性で止められる代物ではない」
「……いやほんとに」
あれは、ただの信者の目じゃなかった。あれは、もっとこう……情熱の方向がバグった人間の瞳だった。
「お主、今後も逃げるのは大変じゃろうなあ」
「他人事みたいに言わないで!!」
ベルンはふむと顎を撫で、僕に向き直る。
「だが、呪いを解く可能性はゼロではない。少なくとも、『器』の条件がなぜ発動したかを探れば、対処法も見つかるかもしれん」
「……それ、どのくらいかかる?」
「早くて半年じゃな」
「待てそれは長すぎる!! その間ずっと『祈りの抱擁』され続けるんだぞ!?」
ベルンは笑いながら、怪しげな道具をぽんと渡してきた。
「ほれ、『変身マント・試作型』。気配を少しだけ薄める効果がある。気休めじゃが、ないよりはマシじゃろ」
「マント!? せめてもっと魔法っぽいものがいい!!」
「開発費がのう……」
財布事情がリアルすぎるよこの世界!
◇
「――神の器様を、聖堂へ奉納いたします!」
その時突然、ベルンの店の外から、張り上げられた村人たちの声が聞こえてきた。
「ちょ、待って!? 奉納って何!? 俺、供え物じゃないんですけど!?」
窓の隙間から外を覗くと、村の広場には人が集まり、クラリスを中心に神聖なノリで祭壇組み立てが始まっていた。
白い布。銀の香炉。妙にふかふかそうなクッション。
いやそのクッション、「祝福の抱擁セット」じゃん!?
「……おいベルン、これ、完全に逃げられない雰囲気になってきてない?」
「うむ。信仰が燃え上がると、どうしてもそうなる。あと聖女様、昨晩からずっとそのクッション抱いてたぞ」
「怖すぎるよぉおおお!!!」
ベルンは肩をすくめると、地下室の扉を開けた。
「幸い、店の地下は古い洞窟跡につながっておる。そこを抜ければ、東の街道に出られるはずじゃ」
「ほんと!? 逃げ道あったの!? さすが魔道具屋! 怪しさと便利さの融合!」
「ただし――」
ベルンは僕の肩に手を置いた。
「この道を選べば、お主は、信者の手から逃げる存在になる。『器』として崇められる道を捨てるのじゃ。それでもいいのか?」
「いいです! 逃げます! 逃げ切ってみせます! 尊厳のために!!」
「ならば……これも持っていけ。『擬態フード・夜間限定バージョン』」
「またフード!?」
「見た目が地味な子ヤギになる優れモノじゃ。ただし夜限定」
「そんなピンポイント擬態いらねええええ!!」
でも、もらった。なんかもう、こういうノリにも慣れてきた。
荷物をまとめ、ベルンと固い握手を交わす。
「ありがとう、ベルンさん。あなたがいなかったら、俺もう終わっていたかもしれない……」
「ほっほっほ、そりゃあご愁傷様じゃな」
「笑いながら言うなぁあああ!!」
背後では村人たちの祈りの歌が始まっていた。
「神の器よ~ ふわふわ~ やわやわ~ ありがたや~」
とかいうギリギリすぎる信仰ソングが耳を突き刺す。
「もう無理……この世界、倫理が死んでる……!」
それでも俺は、足を前に出す。
たとえ全婦女子を敵に回しても、逃げねばならない。
逃げろ。ショタの機動力を信じろ!!
地面を蹴って、洞窟の暗がりへと飛び込んだ。
「神の器様~! どこへ行かれますか~!? 本日の『ふともも礼拝』がまだですよ~!」
「誰がするかああああああ!!」
クラリスの声が、朝の空に響き渡る。
こうして俺の、尊厳と平穏をかけた「変態信仰世界からの逃亡劇」は、まだまだ始まったばかりだった。