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勇者パーティー最弱メンバーですが、がんばります
勇者パーティー最弱メンバーですが、がんばります
白羽瀬理宇
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年04月18日
公開日
6,591字
連載中
いずれ魔王が現れ、この世に混乱をもたらす。だが恐れるな、勇者とその仲間があらわれ、この世を救うだろう。 ルオンはそんな世界で生まれ変わった。ただし、勇者パーティーに愛される少年として。 ルオンは前世では、人の傷を癒し、祝福を与える聖人だった。しかし悲しい運命により、12才になる前に大罪人として処刑される。 120年後の世界に生まれ変わったものの、その姿は、目も見えず、言葉も話せない弱々しい少年だった。 勇者たちと出会い、彼らに愛されながら成長していく少年のお話。

第1話

 それは言った。この世界を赦してほしいと。

 そして、もしできるならこの世界を救う者たちを助けてほしいと。

 それを果たしてくれるならば、命を繋ぎ、力を分けてやると。

 彼は答えた。是と。

 だってあまりにも悲しかったのだ。このまま終わってしまうのが。

 色んなものが見てみたかった。

 色んな人に会ってみたかった。

 他の子どものように自由に外を走り回り、遊んでみたかった。

 自分には、何もかもがなかったから。

 だから、もう少し生きられるなら、それでいいと思った。

 そもそも許せぬものなど何もない。

 助けたかったものを助けられたこともない。

 誰かの助けになれるなら、それもいいと思った。

 それは言った。最初は分からぬことも多いだろうと。

 けれども務めを果たしてくれるならば、それもいずれ解決していくと。

 そんなことを言われても、何が分からぬかさえも分からぬ。

 でももう少し色々分かるなら、それもいいと思った。

 案ずるな、全てが糧になる。

 それが、それから掛けられた最後の言葉になった。


 彼は、はっと目を覚ました。しかし彼の目には何も映らなかった。

 暗闇。

 首を動かして周囲を見回すと、少し離れたところにぼんやりとした灯りが見えた。

 灯りのある辺りから、じじっと何かが小さく燃える音がする。そこにロウソクか何かがあるのだろう。左側からは、微かに空気が漏れる音と、その向こうには人が生活を営む音。右側からは呼吸音。何人かの子どもが息をしていて、そのうち一人は泣いているのか、ときおりしゃくり上げている。わずかに反響する音から、この部屋はそれほどは大きくない部屋なのだと分かった。

 それで思い出した。この身体は目が見えないのだと。

 見えないといっても、まったくの暗闇ではない。明暗はほんのりわかるし、明るい場所なら大きなもののシルエットもぼんやりと分かる。その程度だ。

 とはいえ、その分というか、それ以上にというか、この身体はとても耳がよかった。少し離れたところにいる人の呼吸音や、小さな空気の流れの音すら聞こえる。それで補える部分もあり、慣れている屋内くらいなら何とか行動できる。とはいえ一人では、その辺を歩くことすらままならない。

 それで両親に売られ、今ここにいる。

 しかし、この身体が抱える困難は、それだけではない。

 そのときだ。

「……!!」

 不意に胸にするどい痛みが走った。物理的なものではない。病的なものでもない。

 けれども、まるで大きな針が胸の真ん中を貫くような、そんな痛みだった。

 そうして同時に行かなければと思った。

 向こうの方に、何かとても大切なものがある気がする。

 何を差し置いてでも、自分はそこに行かなければならないと思った。

 それは例えていうならば、使命、いや宿命のようなもの。

 行かなければ……急がなければ、離れていってしまう!

 焦っていると、部屋の外から足音が近づいてきた。彼はとっさに、その足音を恐ろしいと思った。しかしそれと同時に、行かなければという気持ちもまた、爆発的にふくらんでいった。


 足音が止まる。ちょうど空気が漏れる音が聞こえるあたり。

 ガチャガチャと、金属の錠が回される音がする。

 ギイっと木がきしむ音と、すぅと空気が動く音がして、外の音が鮮明に入ってくる。

―今だ!―

 衝動が突き動かすままに、彼は走り出した。

「あ! てめぇ、待ちやがれ!」

 足音の主が怒鳴る。その声は、それまでの彼ならばおびえて縮こまるような声だった。けれども今の彼は、とにかく行かなければという気持ちでいっぱいで、それに構っている余裕はなかった。

 目は見えぬが、行くべき方向はこの心が教えてくれる。

 ふらふらとする頭、折れそうになる膝、ぜいぜいと喉を鳴らす呼吸。

 苦しかったけれど、必死に走った。

 追いかけてくる足音を背中に感じながら、走って走って……そうしてもうダメだと思ったとき、暗闇の中で玉のように輝く光が見えた。

―これだ!―

 この光をつかまえなければ!

 彼はそれに向かって思い切り手を伸ばした。


 しかし。

 指先がその光に触れたと思った瞬間、ガクンと身体が引き戻された。

「この……クソガキがっ!」

 暴力的な怒鳴り声が降ってくる。

 首が絞まって、襟の後ろを掴まれているのだと分かった。

 いやだ、いやだ、光が行ってしまう。

 首を振って、めちゃくちゃに手足を振り回す。

「手間かけさせんじゃねえ!」

 ひゅっと空を切る音がして、バキっという音がした。

 それと同時に、頭の横に痛みが走る。

 殴られた。

 勢いで、身体が地面に叩きつけられる。

 あちこちが痛い。頭がグラグラする。

 襟首を掴まれて、引きずり起こされ、もう一度空を切る音がする。

 身体が恐怖で縮こまる。

 けれども、つぎの一撃は来なかった。

 パシっと軽い音がして声が聞こえる。

「やめないか。まだ子どもだぞ」

 光がすぐそこに戻ってきていた。

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