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第10話 光の魔法剣士

 そんなわけで、元勇者と元戦士の兄である第一皇子が乗り込んで来た。

 予定通り、仲間と分断してヘルクラインだけを玉座の間に誘導した。


 ガイルたちの時のように触手で拘束しようとしたのだが、光魔法で魔力を浄化されてしまい、なかなか捕縛できない。


「ふぅむ。光の加護かぁ。なかなか強いね」


 直接攻撃を仕掛けるランドールも、ヘルクラインが使う光の剣に梃子摺っている。


(これくらい頑張ってくれると、多少は勇者と戦った感があって、いい運動だから、良いんだけど)


 魔王は隣に立つシャムルをちらりと確認した。

 シャムルは色のない目で兄が立ち回るのを眺めている。その目はとても詰まらなそうだ。


(シャムルの本音は、まだよくわからないなぁ)


 魔王はガイルに剣を投げて渡した。


「ガイル、侵入者を殺せ」


 剣を受け取ったガイルが魔王に跪く。


「魔王様の御命令通りに」


 立ち上がったガイルは、何のためらいもなくヘルクラインに斬りかかった。


「ガイル! 兄の顔を忘れたか! 魔王の言いなりに兄に剣を向けるなど、王族の恥だ! 我等王族は民を魔族より守るための剣だ! 目を覚ませ、ガイル!」


 ヘルクラインが如何にも勇者様な台詞を吐いている。


「無駄だ。魔印は死ぬまで消えぬ。ガイルは今や、魔王のために命を捨てる奴隷よ」


 魔王の言葉にヘルクラインが顔を顰めた。


「ならば、この兄がお前に引導を渡してやろう。これ以上、生き恥を晒さぬよう、お前の王族の誇りは私が守ってやる」


 ヘルクラインが剣を高らかと掲げた。


「ヘルクライン兄上が得意とする浄化魔法です。光魔法でガイル兄様を魔印ごと浄化するつもりなのでしょう」


 シャムルが淡々と話す。苦々しくも聞こえた。


「お兄ちゃんなのに、助けてあげないんだ? 堕ちたら即殺害って判断、魔王は嫌いじゃないけど」

「助けているつもりなのです。王族としてこれ以上生き恥を晒さぬよう、ガイルと私を殺して、誇りを守ったという自己満足です。その後で、助けられなかった自分を責めて泣きながら悦に浸るのでしょうね」


 シャムルの顔がついに苦虫を噛み潰したように歪んだ。


「誇りかぁ。人間てプライド守るの、好きだよねぇ。魔王には何百年経ってもよくわからないし、興味がないなぁ」

「私にも、よくわかりません」


 シャムルが魔王を見上げる。

 その目にはうっとりと恋慕が浮いて見える。


(そういえばこの子、攻め込んできた時も魔王のちんぽ見てこんな顔してたねー)


 触手に捕まり、突っ込む前に見せ付けたちんぽに釘付けになっていた。


「シャムル、ヘルクラインを攻撃して光魔法を止めてみよ」

「御意に」


 待ってましたと言わんばかりにシャムルがヘルクラインに向かい、氷結魔法を投げつけた。

 一瞬にしてヘルクラインの全身が凍り付いた。


「容赦ない感じ、いいねぇ。シャムルってお兄ちゃん、嫌いなの?」

「好き嫌いで考えたことはありません。ただ、自分とは違う思考の人間なのだと思っていました。だから興味がありません」


 つまり、嫌い以下ってことだ。

 価値観が共有できないから視界から排除しているのに、自分から入ってくる。だから鬱陶しいのだろう。


 シャムルが投げつけた氷結魔法が弾けた。

 ヘルクラインが無傷で氷を溶かしていく。


「シャムル、お前まで魔王に堕ちたか。リンデル王国の王位を継いだ暁には、お前は私の右腕となり国政を、ガイルが軍を統率し国の民を守る。それこそが我等皇子の責務だというのに! 特にシャムル、文武両道のお前は私が誰より頼りにする存在だ。兄の信頼を裏切るのか?」


 シャムルが小さく息を吐いて、また氷結魔法を投げつけた。

 ヘルクラインが剣で魔法を弾き消した。


「シャムルには魔印を二本、施した。ガイル以上に従順な我の奴隷ぞ」


 とはいえ、魔印の効果は薄れていそうだが。

 ヘルクラインの顔が怒りで歪んだ。


「私の可愛い弟たちに、よくも無礼な仕打ちを! 許さない!」


 ヘルクラインの剣に光が集まっていく。

 部屋中に充満させた魔の気が薄まる。


「光の一閃を打たれては、流石の魔王様も傷付いてしまうかもしれません」


 シャムルが魔王を見上げた。


「魔王様、私の心臓を喰ってくださいませんか?」


 自分の胸に手を当てて、シャムルが可愛らしく笑んだ。

 何も言わずに見下ろす魔王に、シャムルが続ける。


「私に施した魔印の効力が薄れていると、魔王様はお気づきなのでしょう? だから私の本心をはかりかねていらっしゃる」

「気が付いてたの、偉いね。最初に攻め込んできた時も、シャムルは全力じゃなかったね」


 魔王がシャムルの頭を撫でると、シャムルが嬉しそうに受け入れた。


「申し訳ございません。魔王様が魔印を付けてくださるようだったので、早く欲しくて戦う振りができませんでした。私は魔王様の側近になりたい。けれど、言葉だけでは疑われましょうから、どうか、心臓を喰ってくださいませ」


 魔王の手を取り、シャムルが自分の胸に宛がった。


「ほうほう、なるほど。いいよ。面白そうだから、シャムルの心臓、喰ってあげるね」


 なかなか小気味いい提案に興味が湧いて、魔王様はシャムルの作戦に乗ることにしました。

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