夕暮れが近づき、赤い光が異世界の空を染める頃、ニニギがふと空を見上げる。
そこには無数の光粒が舞い始め、VTuberたちの身体が透けていくように見えた。
「……どうやら帰る時間みたいね。皆、見て。」
次の瞬間、シャムの腕が白く輝き始め、徐々に“消えて”いく。
現実世界への帰還が始まったのだ。
「ルナ、色々あったけど、ありがとう。あんたのおかげで……うん、ちょっとだけスッキリしたわ。」
シャムは照れたように微笑むと、光の粒子になって消える。
「あなたには感謝しかないわ。戻ったら息子を紹介したいの、ぜひうちに遊びに来て」
ニニギは、すっかり母親の顔になった柔和な微笑みと共に淡い光となって姿を消す。
VTuberたちは光となって消え、あたりは幻想的な光景に包まれるのだった。
===現実世界===
真琴が光の粒子から姿を現した瞬間、「ママあああ!」という高い声が響き渡る。
小さな男の子が勢いよく真琴の足元に飛び込んできて、そのまま抱きついた。
「ごめんね、心配かけちゃったね……でもママ、ちゃんと帰ってこれたよ!」
-
とある雑居ビルの屋上。
シャムの“中の人”らしき女性が、スウェット姿でタバコをぷかりと燻らせながら夜空を見上げていた。
異世界での記憶を反芻するように、静かに煙を吐き出す。
「ああ、何やってんだろ、あたし……でも、なんだか少しだけ気が晴れたわ」
そのつぶやきには、自嘲とほんの少しの清々しさが混じっている。
彼女は携帯の画面を開き、シャムのチャンネルを見つめる。
再び“配信”ボタンを押す日は、意外と近いのかもしれない——そんな予感を抱えながら。
===再び異世界===
戦場、そしてフェスの会場となった廃墟には、わずかな静寂と、猫神ルナの姿だけが残る。
「え……? みんな帰れたのに、わたしは……?」
ルナは自分の腕を見つめるが、光のエフェクトはまったく発生していない。
周囲を見回しても誰一人いない。
フジワラでさえもいつの間にか帰還したようだ……
ルナは祈るように目をぎゅっと閉じる。そして数秒待つが、何も起きない。
こっそり片目を開けて様子を伺うが、やはり光は降ってこない。
「えーーーっ!? VTuberだけど、わたしだけ……帰れないんですかにゃーーーーー!?」
誰もいない廃墟に、ルナの叫び声が虚しく反響するのだった。
(第一部 完)