突然、視界の片隅に文字が流れ始めた。
美咲は思わず息を呑む。
みけのすけが黙って配信を開始したことに、美咲は気づくのが遅れた。
「戦えなくても、僕たちが応援する!」
そんな力強いコメントが流れた直後、にゃん民たちの声はさらに勢いを増していく。
みけのすけがひそかに繋いだ配信は、古参も新参も巻き込んで大盛り上がりになっている。
にゃん民: 初見です! がんばって!
にゃん民: 身バレしても別にいいじゃん!オレは推すぜ!
にゃん民: まとめから来ました!面白い展開すぎるwww
にゃん民: ババアって聞いてたけど、地味なだけじゃん、逆に推せるわ!
にゃん民: 久々に見たけど、やっぱルナちゃん(中の人さんも)好きだよ!
にゃん民: 頑張れ頑張れ!ルナちゃん気にすんなー!
にゃん民: 今時、中の人透け透けだって推し続ける人はいるんだから気にしないで!
にゃん民: の◯キャットですでに通った道なんだわw
驚き、戸惑い、そして戸惑いながらも微かな安堵が美咲の胸に広がる。
確かに中身がバレてしまった。もうルナの仮面は完全には守れないかもしれない。
でも、それでも「応援する」「気にしない」「逆に推せる」と笑い飛ばしてくれる人たちがここにいる。
「金は愛だ!」
突然、コメント欄で誰かがそう叫んだ。
瞬間、高額スペチャが画面を彩り、オレンジや赤、虹色のスパチャ帯が乱舞するように流れていく。
「オレも行く!」「私もスぺチャ!」と次々に金色の輝きが追加され、画面はまるで七色の虹のようになった。
美咲は息を呑む。
お金は確かにありがたいが、それ以上に、この行為は「応援したい」「支えたい」という気持ちの表現だとわかる。
金額の大小より、そこに込められた愛が、美咲の凍えていた心を溶かしていく。
「……こんな私でも、応援してくれるんだ……」
声が震える。
中の人がバレても、ファンはいてくれる。
ルナじゃなくても、人間らしい自分でも、価値がないわけじゃない。
自分は一人じゃない。
中身がバレても、幻想が少し壊れても、ファンはここにいる。
ならばもう一度立ち上がろう。もう一度、VTuberとしての夢を届けてみよう。
美咲は、弱々しかった拳をかすかに握りしめ、かすれた声でつぶやく。
「私、もう一度VTuber、やっていいのかな?」