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6-8 四天王ミヴァレオン

 エルフの里は、世界樹の根元で繰り広げられた戦いの傷跡がまだ残る中、新たな脅威に直面していた。


 重々しい足音が響く。

 鎧を纏い、獅子の顔を持つ獣人が、ゆっくりと悠然とした動きで前へ進んでくる。


「なんだこれは……」


 そのライオン獣人、魔王四天王の一人、ミヴァレオンは鼻をひくつかせ、地面に散らばるアリモンスターの残骸を眺めた。


 クイーンアントとその眷属は、想定外の形で全滅している。

 世界樹のエナジーを啜り取る作戦が、誰かによって阻止されたらしい。


「アリどもを全滅させるとは……愚かな妨害者め。」


 ミヴァレオンはクイーンアントの遺骸に近づき、その巨大な死骸を冷めた目で見下ろす。

 手を差し入れて掻き回すと、硬い外殻の隙間からキラリと光る魔石を引き抜く。


「ふん、まあ回収はできたようだな。

 魔王様、確かにエナジーはお届けしましたぞ。」


 獅子の顔に不気味な笑みが浮かぶ。

 魔石を亜空間に転送する仕草を見せると、淡い光が石を包み、空間に溶け込むように消える。

 これで魔王の元へ世界樹由来のエナジーを送れたことになる。


「しかし、アリどもを全滅させたのは誰だ?」


 ミヴァレオンは周囲を見回し、樹間の家々や光苔で照らされた小道を見下ろす。

 エルフたちの視線が遠巻きに集まっているが、彼らは恐怖に顔を歪め、すでに戦意などないだろう。


「エルフどもめ……出て来い!貴様らが余の計画を妨げたのか?

 仕方ない、燻り出すとしよう。」


 片手を挙げ、ミヴァレオンは火炎魔法のような力を解放する。

 閃光が走り、エルフたちが隠れている家屋に無差別に熱波が襲い掛かる。

 木々が軋み、悲鳴があがる中、エルフたちは絶望に凍りついたように震える。


「エルフの里を焼き討ちし、犯人を燻り出してくれようぞ!」


 その狂気じみた響きを含む声が里中に反響し、緑豊かなはずの空間が、急速に戦場の空気へと変貌していく。


 そんな中、一軒の建物から、まだ疲れの残る体で美咲が外へ出てきた。

 中の人の姿のまま、骨の軋むような痛みを堪えながら、彼女は声を失ったエルフたちの間を縫うように進み、ミヴァレオンの視界に入る。


「ほう、人間か。エルフの里に人間とは珍しいな。」


 ライオン獣人は眉をひそめ、舌なめずりするような仕草を見せる。

 そして疑わしげに目を細めた。


「まさか、魔族か?いや、人間のようだが……」


 美咲は返事ができない。まだ状況が把握しきれず、体は鉛のように重い。

 果たして、この狂気と暴力に満ちた存在に、彼女はどう立ち向かえるのだろうか。



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