美咲は布団の中で拳を握りしめながら、瞳を閉じた。
身体は重く、心も重い。
今ここにいるのは、猫神ルナではなく川島美咲。
誰もが待ち望んでいた偶像などではなく、ただの人間。
(私は……昔からそうだった)
両親が事故で亡くなったのは美咲がまだ幼い頃。
その時から、喪失と孤独はずっと心に巣食っていた。
親戚を転々とし、不機嫌な大人たちの間で肩身を狭くしながら生きてきた。
誰も美咲に期待しなかったし、美咲も誰に頼ればいいのか分からなかった。
大人になり、バイトを掛け持ちし、テレアポの仕事に明け暮れた。
しかし、電話越しの客から「声が変、ふざけてるのか?」とクレームを受ける度、惨めな気持ちが胸を刺した。
普通に喋っているだけなのに、どうしてこんなにも受け入れてもらえないのか。
何度もそう思い悩んだ。
それでも偶然見つけたVTuberオーディションで、やっと合格できた時は嬉しかった。
華々しくデビュー……とはいかなかったものの、初めはマネージャーも「頑張りましょう!」と明るく声をかけてくれた。
だが、そのマネージャーは日に日に元気を失い、最後には退職。
同期のメンバーたちも、一人、また一人と消え、気づけば美咲は孤独だった。
ジニーのVTuber部門は結局採算が取れず、解体を決定。
美咲は猫神ルナというキャラクターをどうしても捨てたくなくて、IPを買い取って個人勢として続けてきた。
でも、登録者は伸び悩み、同接は落ち込み、虚しくなるばかりだった。
そんな時、突然異世界に転移させられ、猫神ルナとして異世界で活躍できるようになった。
本来なら現実世界へ帰る方法を探るところだが、帰ろうという気は微塵も起こらなかった。
ルナでない自分に価値はない。
配信を終えて美咲に戻ると、人目に触れないように宿屋に引きこもっていた。
完全に美咲を捨てて、ずっとルナでありたかった。
でもバレちゃった。
(もう潮時なのかもしれない……)
美咲はぼんやりとそう思い、涙が滲む。
その時だった。
「ドォンッ!」
エルフの里の外から、地響きとともに爆発音が響いた。
微かな振動が足元に伝わってくる。
「な、何……?」
美咲は思わず目を見開く。
絶望の中、まだ何かが起きようとしているのだろうか。