世界樹の根元で繰り広げられた激戦が終わり、エルフたちが喜びと安堵の声を上げる中、ルナはその場に膝をついていた。
全身が痛む。腕や足は痺れ、呼吸も荒い。
コメント玉でクイーンアントを撃破したとはいえ、限界に近い消耗だった。
「はぁ……はぁ……みにゃさん……勝てましたにゃ……」
ルナが弱々しく微笑むと、にゃん民たちも「お疲れ!」「よくやった!」と励ましの声を送る。
その時、静寂を切り裂くかのように、ふいに視界の端に影が差し込んだ。
振り向くと、そこにはゴスロリ服に身を包み、黒髪、猫耳、そして病んだようなメイクを施した女が立っていた。
淡い笑みを浮かべ、見下ろすような視線をルナに投げている。
「ふぅ〜ん、なかなかやるじゃない。思ったより弱くないのね。」
その声は棘を含んでいて、ねじれた可愛さと冷たさが混在している。
「え、えっと、あなたは……?」
ルナが戸惑うと、コメント欄がざわめく。
にゃん民: だ、誰だあれ…?
にゃん民: まさか! 虚猫シャム…?
にゃん民: 100万人越えVTuberじゃん!マジか
「虚猫(うつね)シャム……!?」
ルナはその名を反芻し、驚きに目を見開く。
自分と同じVTuberで、しかも100万人を超える大人気VTuberが、この異世界にいるなんて。
感動に似た興奮が、疲れきった体に再び波紋を広げる。
「あなたもVTuberなんですかにゃ!
こんな異世界でまたVTuberに会えるなんて……嬉しいですにゃ!」
ルナは手を差し出し、握手を求める。
しかし、その手はシャムによって冷たく叩き払われた。
「気安く触らないで。」
短く鋭い言葉が、ルナの胸を突き刺す。
にゃん民たちも息を呑み、シャムを注視する。
にゃん民: やべぇ、感じ悪っ!
にゃん民: なんでシャムがここに…
にゃん民: 面倒な相手が出てきたな
ルナは手を引っ込め、戸惑いを隠せないまま、シャムの真意を探るように、その闇めいた瞳を見つめるのだった。