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6-1 虚猫シャム

 世界樹の根元で繰り広げられた激戦が終わり、エルフたちが喜びと安堵の声を上げる中、ルナはその場に膝をついていた。


 全身が痛む。腕や足は痺れ、呼吸も荒い。

 コメント玉でクイーンアントを撃破したとはいえ、限界に近い消耗だった。


「はぁ……はぁ……みにゃさん……勝てましたにゃ……」


 ルナが弱々しく微笑むと、にゃん民たちも「お疲れ!」「よくやった!」と励ましの声を送る。


 その時、静寂を切り裂くかのように、ふいに視界の端に影が差し込んだ。


 振り向くと、そこにはゴスロリ服に身を包み、黒髪、猫耳、そして病んだようなメイクを施した女が立っていた。

 淡い笑みを浮かべ、見下ろすような視線をルナに投げている。


「ふぅ〜ん、なかなかやるじゃない。思ったより弱くないのね。」


 その声は棘を含んでいて、ねじれた可愛さと冷たさが混在している。


「え、えっと、あなたは……?」


 ルナが戸惑うと、コメント欄がざわめく。


にゃん民: だ、誰だあれ…?

にゃん民: まさか! 虚猫シャム…?

にゃん民: 100万人越えVTuberじゃん!マジか


「虚猫(うつね)シャム……!?」


 ルナはその名を反芻し、驚きに目を見開く。

 自分と同じVTuberで、しかも100万人を超える大人気VTuberが、この異世界にいるなんて。


 感動に似た興奮が、疲れきった体に再び波紋を広げる。


「あなたもVTuberなんですかにゃ!

 こんな異世界でまたVTuberに会えるなんて……嬉しいですにゃ!」


 ルナは手を差し出し、握手を求める。

 しかし、その手はシャムによって冷たく叩き払われた。


「気安く触らないで。」


 短く鋭い言葉が、ルナの胸を突き刺す。

 にゃん民たちも息を呑み、シャムを注視する。


にゃん民: やべぇ、感じ悪っ!

にゃん民: なんでシャムがここに…

にゃん民: 面倒な相手が出てきたな


 ルナは手を引っ込め、戸惑いを隠せないまま、シャムの真意を探るように、その闇めいた瞳を見つめるのだった。




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