アリモンスターたちが再び猛攻を仕掛ける。
クイーンアントの圧倒的な威圧感と、足元で群がる蟻の軍勢が、世界樹の根元を守るエルフたちを絶望に追いやろうとしていた。
「にゃんこ百烈掌っ!」
ルナは再び拳を振るい、次々と襲い来るアリモンスターを打ち払う。
だが、物量が多すぎる。
潰しても潰しても、クイーンアントが眷属を生み出し、キシャキシャと醜い音を立てて向かってくる。
「ふ、ふにゃあ……厳しいですにゃ……!」
コメント欄も息を呑んで見守っている。
にゃん民: ごめん、もう金ないんだ…
にゃん民: 請求書が怖いよ…
にゃん民: 何もできなくてごめんルナちゃん
「み、みにゃさん、そんなことないですにゃ!」
必死に戦いながら、ルナは声を張り上げる。
踏み込むたびに泥濘みたいにうごめく蟻の集団に胸が塞がれそうになるが、視界の端にはいつもコメント欄の文字が躍っている。
「お金なんかいらないですにゃ。
こうして見てくれてるだけで、私、勇気が湧くんですにゃ!」
その言葉に、コメント欄がざわついた。
にゃん民: ルナちゃん…
にゃん民: 見るだけでいいのか…
にゃん民: ありがとう、俺たちだって支えになれるんだ
その瞬間、VTubeスタジオがまた通知を出す。
「累計コメント数10万達成。
条件クリアにより新スキルを解放します。」
「新スキル……!」
ルナは瞬時にインターフェイスを操作し、そのスキル名を確認した。
「Vスキル:コメント玉……
発動後1分間のコメントを集めて敵に投げつける……!?」
にゃん民: 金じゃなくてコメントが力になる…!
にゃん民: これなら無課金でも役に立てるぞ!
にゃん民: 腱鞘炎になるまでコメント打つわ!
にゃん民: このまま異世界がどうなってもいいのかバカヤロー!
にゃん民: 俺、ルナアンチだけどよお... 今回ばかりは協力してやるぜ!
ルナは笑みを浮かべ、拳を握りしめる。
「みんな、これからスキルを発動しますにょで、コメントを送ってくださいにゃ!
1分間、何でもいいですにゃ。よろしくお願いしますにゃ!」
にゃん民たちは一斉にコメントを投下する。
「がんばれ!」「いける!」「負けるな!」「ルナ最強!」など、大量の文字が画面を埋め尽くす。
コメ欄からコメントが実体化し、昇竜のように螺旋を描きながら上空へと駆け上る。
何筋ものコメントが集まり、ルナの頭上に光る球体が形成されていく。
コメントたちが溶け合い、一つの巨大な玉となって輝く。
「すごい……大きくなってるですにゃ……!」
コメント玉はクイーンアントの体積を軽く超えるほどの大きさに膨れ上がる。
エルフたちは信じられない光景に目を丸くし、クイーンアントやアリモンスターたちは奇妙な音を立てて警戒している。
やがて1分が過ぎた瞬間、ルナはユニコーンに乗り、ひとっ飛びで空中へ跳び上がる。
その手でバレーボールをスパイクするように、コメント玉を叩き落とした。
「いきますにゃーーーーーっ!」
巨大なコメント玉が地面に向かって一直線に落下する。
クイーンアントと蟻の大群が慌てて散ろうとするが、時すでに遅し。
玉は強烈な勢いで衝突し、爆発的な光と文字の残像を撒き散らして、敵を押し潰す。
破壊音が響き渡り、粉々になった甲殻が飛び散る。
クイーンアントは断末魔の悲鳴を上げ、眷属生成をする間もなく、文字通りコメントに埋もれて消えていく。
にゃん民: やった!
にゃん民: 無課金の俺らでも勝てたぞ!
にゃん民: ルナちゃん最強!みんなで勝った!
ルナは荒い息を整え、地上へ舞い戻ると、エルフたちが歓声を上げて喜び、みけのすけも笑顔で頷いていた。
世界樹とエルフの里は救われ、光がまた静かに揺らめいていた。