ラジコン化が解けると同時に、ルナはがくりと膝をつきそうになるほどの疲労感に襲われた。
さっきまで虫嫌いの恐怖すら忘れて機械的に動いていた反動か、全身が鉛のように重い。
「はぁ…はぁ……何……この疲れ……」
ルナは肩で息をしながら周囲を見回す。
地面には大量の虫の残骸が散乱しており、エルフたちは唖然として立ち尽くしている。
「俺たちが倒しておいたよ!」と、にゃん民たちがチャット越しに声をかける。
にゃん民: ナイスファイト俺たち!
にゃん民: まさか本当に指示で動くとはな
新規にゃん民: ここってVTuberに自由に指示できるチャンネルなんですか?おもしれー
「み、みにゃさん……ありがとうですにゃ……」
ルナは弱々しい笑みを浮かべる。
実際にはルナが動いたのだが、にゃん民たちがコマンドを打ち、虫を倒す上で明確な“操縦者”になっていたことは確かだ。
一方、みけのすけはエルフの治癒魔法士に回復魔法をかけられていた。
光の粒子が降り注ぎ、みけのすけは少しずつ呼吸を整えている。
「よかった……みけのすけも助かりましたにゃ……」
ルナがホッと安堵のため息をついたその時、地面が震えた。
ゴゴゴ……と鈍い振動と共に、世界樹の根元付近の地面が盛り上がり、巨大なアリ型のモンスターが姿を現す。
そのアリは、これまで見た虫よりも遥かに大きく、まるで城ほどのサイズを持つ巨体。
ツヤツヤの黒い外殻が光り、女王蟻のような威圧的な存在感を放っている。
「な、何ですにゃ……あれ……」
エルフたちが悲鳴を上げる。
アリモンスターたちが再びざわめき、地面に散らばる虫の残骸を拾い集め、クイーンアントに差し出している。
クイーンアントは嬉々としてそれを貪り、嚙み砕く音が不快なまでに響く。
そして、クイーンアントはその栄養を元に新たなアリモンスターを生み出しているようだった。
地面の穴から次々と湧き出す小型のアリモンスターたちが、キシャーと音を立ててエルフたちを睨む。
「こんなの、どうすれば……!」
にゃん民: ヤバすぎるだろ
にゃん民: せっかくラジコンモードで倒したのにまた…
にゃん民: ラジコン化スキルは?
ルナは急いでVTubeスタジオを確認するが、「ラジコン化」のアイコンはグレーアウトしており、再使用できない状態だ。
「また……あの強力な手が使えないですにゃ……」
途方に暮れそうな気持ちを押し殺し、ルナは何とか立ち上がる。
このクイーンアント、そして湧いて出るアリモンスターたちは、世界樹とエルフの里を滅ぼしかねない脅威だった。