ラジコン化スキルを発動した瞬間、ルナの瞳から感情がすうっと抜け落ちたかのように、光が消えた。
先ほどまで怯えて震えていた姿はどこへやら。肩の力が抜け、まるで人形のように無表情に立ち尽くす。
「ルナ様……?どうなされたのですか?」
エルフたちにも動揺が広がる。
にゃん民: な、なんかおかしいぞ
にゃん民: 感情ないなった?
にゃん民: まさかの無機質モード…
すると、配信画面に管理者メッセージが表示される。
「『猫神ルナはラジコンモードに入りました。
指示厨の皆様、指示をお願いします。』」
「指示厨」——その言葉に、コメント欄がざわつく。
にゃん民: 指示厨って何だよ!
にゃん民: ルナちゃんが指示待ち状態ってこと?
にゃん民: え、じゃあコメントで指示すれば動くのか?
誰もが戸惑う中、一人のにゃん民が恐る恐るコメントを書き込む。
「目の前の虫を攻撃して!」
無表情のルナはスッと体を動かし、残っていた虫の一匹に近寄ると、パンチ一発でその硬い甲殻を砕き、吹き飛ばしてしまう。
エルフたちは目を見開き、驚嘆の声を上げる。
「こ、これは……我々エルフが数百年鍛錬しても到達困難とされる明鏡止水の境地!
さすがルナ様……!」
アリュリアや周囲のエルフたちは感嘆と尊敬の念でルナを見つめ、里長も静かに頷いている。
にゃん民: すげえ!言うこと聞いた!
にゃん民: これは完全にコマンド入力で動くルナちゃん…
にゃん民: なんでもできるのか?
「ここは私の出番のようですね……」
数多くのVTuberのゲームプレイに指示をしてきたいわゆる「指示厨」歴ウン年のベテランにゃん民が立ち上がる。
余談だが、彼はルナ以外のVTuberのチャンネルからはBANを喰らっているらしい...
にゃん民(ベテラン指示厨): ↑↑↓↓←→←→BA!!
その懐かしげなコマンドがコメント欄に躍ると、ラジコンモードのルナは静かに頭を傾げ、次の虫の集団に立ち向かう。
感情を感じさせない滑らかな動きで、虫たちを一撃で粉砕していく。
甲殻が砕け、羽が散る。恐ろしいほどの速度で虫たちは数を減らし、悲鳴を上げて逃げ惑う。
にゃん民: 俺もいくぜ! スピニング◯ードキック!
まるで高度なゲーマーがキャラクターを自在に操るかのように、にゃん民たちの指示を反映したルナは、恐怖や嫌悪感を微塵も感じさせず、無慈悲なまでに敵を蹴散らしていく。
にゃん民: やばい、これはチートすぎる
にゃん民: ロールプレイどころか感情ゼロだけど、強さは本物
にゃん民: つ、強い……!
大量にいた虫たちは、数分と経たずに壊滅状態。
世界樹の根元から虫の姿が消え、エルフたちは呆然と、そして感謝の眼差しでルナを見つめている。
指示コメントが途切れると、ルナは動きを止めるのだった。