不快な羽音が耳元を揺らす。
気味の悪い、光沢のある羽を持つ虫が宙を舞い、ルナの顔めがけて突進してきた。
「ひっ……!」
いつもなら、パンチ一発で弾き返せるはずだ。
だが、この黒々とした羽と細い脚が動く様は、ルナの理性を凍らせる。
手が震え、足が縫い留められたように動かない。
「ルナ、危ない!」
みけのすけが急いでルナの肩から飛び降り、虫を叩き落とそうと身を挺する。
小さな体で突っ込むが、羽ばたく虫に弾かれ、地面に叩きつけられる。
「み、みけのすけ!?」
ルナは顔を青ざめて近づこうとするが、虫はまだ周囲を飛び回っている。
みけのすけは痛みに耐えて声を上げることもできず、弱々しく震える。
(情けない、私……!)
ルナは涙目になりながら、自分を責める。
散々チート的な活躍をしてきたはずなのに、虫の群れを前に縮こまっている自分。
助けたいのに、怖くて動けないなんて。
そんな時、脳裏に浮かぶのは、エルフの里に来る前に
ステータスを見た時に出ていた見慣れないスキル名——「ラジコン化」。
Vスキルの一つで、何かを遠隔操作できるようなものだろうか。
「一か八か……やってみるしかないです……」
ルナは震える声で決意を込め、VTubeスタジオのインターフェイスを指で探る。
アイコンを見つけ、ラジコン化スキルを発動する。
光が淡く漂い、周囲の空気がひやりと変わる。
このスキルが状況を変える手立てになることを祈り、ルナは唇を噛んだ。