「いいですか、俺は貧乳が好きなんじゃなくて、好きになった子がたまたま貧乳だっただけです!」
「たまたま?全員……貧乳なのに?」
「はいそうです」
その瞬間だった。
後ろから、ぴたりとヴィーナス様の体が密着してくる。
背中に押し当てられる少し柔らかい感触。
呼吸の熱すら、耳にかかってくる距離で——
「ねぇ、私のことも……好きなんですか?」
顔なんて見えなくてもわかる。
絶対、今、意地の悪い笑顔をしてる。
てか、当ててくんな!
……やばい、これ反応したらダメだ。
「は…はぁ!?な……なんでそうなるんですか!?」
「いや、だって、星くん、貧乳が好きなんですよね?」
だから、たまたまだって言ってるじゃん
完全にいじりに来てるな……
この女神は……抱きつけば俺がおろおろすると思ったんだろ?
ヴィーナス様を少し小馬鹿にするような口調で話す。
「いやぁ〜ヴィーナス様は貧乳じゃないんでしょ?」
さらに追い討ちをかける。
「も……もしかして貧乳っていうじ、自覚が……?大丈夫です!!ヴィーナス様は、巨乳ですから。あ〜〜危なかったなぁ……もし、ヴィーナス様が貧乳だったら好きになっていたかもしれませんよ〜?」
顔は、見れないがこの空気は間違いない……
おっ、おおお?
ピキってるな……?
待って、ヴィーナス様、抱きつく力強くなってる。ねぇ、痛い、痛いです。背中がヴィーナス様の肋骨に思いっきり当たって……
なんか、さらに力込めて抱きしめてきてるし!
痛っ、ほんとに、痛いってば……!
ヴィーナス様がゆっくり声をかけてきた。
「星くん……ちょっと立ってもらえますか?」
「……なんですか!?や……やるんですか?受けて立ちますよ!」
ヴィーナス様の膝の上から立ち、シャドーボクシングの真似をしながら身構えながら振り返ると目の前のヴィーナス様は、笑顔でゴソゴソと服から何かを取り出した。
「これな〜んだ……?」
……携帯?
いや、それにしては小さいか?
「……いや、わかりませんけど。勝負なら受けて立ちますよ」
「勝負したら私の瞬殺なのでやりません。それよりも良いものを聞かせてあげますよ…」
「何ですか?俺の勝利記念に何かプレゼントですか?……いい心が——」
「ぽちっとな」
———ザッザザ……
……なんだこれ?
ノイズの後に声が聞こえてくる?
ヴィーナス様の声?
いや、俺の声も聞こえる。
——……ホシイ
ほぉ、いいですね!いいですよ!
やってあげますとも、他にもあればもう一つくらいなら叶えてあげますよ?何か囁いて欲しい言葉とかありますか?
スキッテ……イッテホシイ
———ザッザザ……と再生が終わり、あたりが静かになる。
ヴィーナス様は悪魔的な微笑みを浮かべた。
「星くんの愛の告白です。聴いて頂けましたか?」
ビクッと一瞬だけ跳ね、ピタリと動けなくなる。
「……なに、これ……?」
録音されていた現実を受け入れられずにいた。
魔法をかけられているわけでもないのに体を動かすことができない。
徐々に肩だけがじわじわ震え出す。
「……いやいや、映画館で録音するとか何考えているんですか?犯罪ですよ……!?犯罪!!」
「いえ、この時、映像見てませんし……それに撮影OKって言いましたよね?」
「いや、そんなことはいいですよ。神様だからって……!!こんな……あんた、神様じゃねえよ!鬼…鬼畜……悪魔!!」
「いえね?……私も星くんに聞かせるために録音したわけじゃないんですよ?」
ヴィーナス様はしれっとした顔で続ける。
「ちょっと凹んだ時やイライラした時に聞いたら元気になれるかなって?」
何が「元気になれるかなって」可愛らしくいいやがって……!
絶対、凹む時なんかないだろ!この性格だぞ?
絶対凹ますほうじゃん……
でも……これって確か
ふとした疑問をヴィーナス様に尋ねる。
「この時の状況って、俺の意識ほぼなかったですよね?本当は……ヴィーナス様が無理やり言わせたんでしょ……?」
ヴィーナス様は真面目な顔になり静かに答える。
「確かに、おまじないの効果はちょっと強めになりましたけど、私、思っていないことを無理矢理言わせることはしないですよ?」
……なに、じゃああれは俺が心の底ではヴィーナス様に好きって言って欲しいって思っているってこと……?
いやいや……いやいや!?
ここまできたら、やるぞ俺は……
一瞬目を瞑り、その間に脳をフル回転させる。
———このカードは使いたくなかったがしょうがない……
悲しげな顔を作りヴィーナス様に話しかける。
「それ……多分なんですけど、ヴィーナス様のことが好きだから……とかじゃなくて」
なんで……自虐しなければいけないんだと言う気持ちをグッと抑え、続ける。
「……あまり人に好きって言ってもらったことがなくて……だから無意識で人からの愛が欲しくてそう思ったのかもしれません……」
……この言葉は嘘じゃない!!
くらえ!
これで終わりだ。
さらにヴィーナスに話しかける。
「その……魔法って、どういうものでしたっけ……?確か欲に素直になるっていう魔法ですよね?」
ゆっくりとヴィーナス様のほうに、頭を深々と下げ謝罪をする。
「ヴィーナス様……ごめんなさい。勘違いさせてしまいましたね……もし、凹むことがあったらこの録音を聞いて元気を出してください」
「……ふーん、そういう言い訳をしますか。あくまで私のことを好きって認めないってことですね」
「まぁ、いいでしょう。私のことが好きなのは星くんの行動でわかってますから……!好きだってしっかりと自覚するのも時間の問題ですよ?」
「そんなこと言って、……実は俺にメロメロなんじゃないですか?」
ヴィーナス様は冗談でしょ?という冷ややかな目向け鼻で笑った。
「……はんっ」
えぇ、そんなに……?
ちょっとショックを受けていると
ヴィーナス様はため息をつき、いつもの表情に戻る。
「ほらなんでちょっと凹んでるんですか?そろそろ次に行きますよ!」
ヴィーナス様は元の席に戻っていく。
「ほら、早く立ってないで私の膝の上に戻って来てください。」
俺にぽんぽんと膝の上を叩いて座る様に催促する。
ヴィーナス様の膝の上に戻りながら
ふと、考える……
……何で俺こんなに必死に否定してたんだっけ?
恥ずかしいから……?いやそれもあるけど……
それだけじゃなくて———
そんなことを考えている内に次の映像が流れ始めた。