ヴィーナス様と俺は新しく切り替わる映像を黙って見つめていた。
「学校の映像に戻りましたね」
「そうですね。これは……休み時間だと思います」
10年近く前のことなんて、覚えてるわけがない。……さっきのよりやらかすことなんてそうそうないだろと考えていると何かノートに書き込んでいる俺の姿が見えた。
ヴィーナス様は少し感心した様子で話す。
「休み時間まで、勉強だなんて……なんだかんだで真面目ですね、何の勉強をしてるんでしょう?」
……おかしい、俺がそんな真面目だった記憶がない。周りを見てもテスト時期ではなさそうだし、そんな勉強することあったかと首を傾げているとヴィーナス様はリモコンを操作し、カメラの位置を変更する。
画面の中に映ったのは———
……俺の“推しキャラノート”。
そこには、俺の好きなキャラクターの絵を貼り付けたものとプロフィールまとめた文章がびっしり書き込まれていた……
なんか……見覚えあるわこれ。
授業中に先生に没収されてみんなの前で暴露されるやつだ……
いや……さっきのやつよりは全然いいけどこれはこれできつい。
ヴィーナス様は呆れたように眉をひそめ、ため息をついた。
「こういうものこそ、お家でこっそりコソコソやるものなんじゃないですか?」
からかいでも何でもない正論が胸に突き刺さる……
「……おっしゃる、通り……です……」
「これじゃあ、直前に褒めた私がバカみたいじゃないですか。なにがなんだかんだ真面目ですか!」
「ぐぅの音もでない……」
ヴィーナス様はリモコンを構えた。
「もう、結末もわかりましたし、次、いきますか。」
リモコンを持ち、早送りしようとするとなぜか手が止まった……
「ヴィーナス様……?」疑問に思い、声をかける。
女神は画面を見つめながら、ぽつりと聞いて来た。
「あの?このノートって……“推しキャラ”が載っているんですか?」
当然の事を聞くヴィーナス様に首を傾げながら
「はい、そうですよ」と答える。
「“推し”って“好き”って意味なんでしたっけ?」
「そうですけど……さっきからどうしたんです?早くラストにいきましょ?」
その時だった。
背後から、ぞくりとするような静かな笑い声が漏れ聞こえた。
「ふ、ふふ……このノートの中身……ゆっくりと見ていきましょうか……星くん?」
「いやいや、おかしいですよね?これは、黒歴史鑑賞会であって推しキャラノートの鑑賞会じゃないじゃないですか!」
巻き戻しをしようとするヴィーナス様を慌てて止めようとする。
「何言ってるんですか!これも立派な黒歴史鑑賞会じゃないですか?」
だめだ……こうなったらこの神もう止まらない
———スイッチ入っちゃった。
何で、そんなにルンルンなんだよ……?
「どれどれ……どんな女の子がいるのかなっと。共通する点はなんですかね?」
映像をズームしてノートの内容をゆっくり見ていく。
「ふむふむ、身長はバラバラ……髪型も統一感なし……。星くん……この子達の性格は?」
「みんな可愛いです」
「そんなの、これ見たらわかります。知りたいのは性格です!」
え、1人1人答えていくの?
まぁ、マジで共通点ないし早く終わるならいっか……
「そこに書いているの何人ですか?」
「……4人ですね、この子から教えてください」
「……頭のいいお姉さん系です」
「この子は?」
「優しいお嬢様系です」
「次!」
「揶揄い系の幼馴染」
「ラストは?」
「頑張り屋の後輩」
ヴィーナス様は、腕を組みながら考えこむ
「ん〜……年齢も関係性もバラバラですね。心の中をのぞいても嘘をついている様子はありませんし……」
俺は座席のドリンクホルダーからコーラを手に取る。
「だから言ったじゃないですか。共通点がないんですよ、マジで」
言い終わると勢いよくコーラを飲み始める。
ないよ、ヴィーナス様、考えても無駄だから!
「何かあると思ったんですけど……何かないですかね……?あっ……!?わかりました。わかりましたよ!」
何がわかったんだ……?
眉をひそめながらコーラを飲み続ける。
「みんな、胸が小さいんです!!」
ぶふっ!!
予想にしていなかった言葉に飲んでいたコーラを吹き出してしまう。
「ちょ……ちょっと!?大丈夫ですか?お行儀悪いですよ……あとで掃除してくださいね?」
俺の頭の中には一つの疑問が浮かんだ。
いや、嘘だ……冗談でしょ?……
思わず、ヴィーナス様に聞いてしまう。
「俺って貧乳がタイプだったんですか?」
「いや、そんなこと知りませんよ、ただ、胸が大きい子は、いないんでそういうことじゃないんですか?」
認めない……認めないぞ、もしそうだったら俺は……