ぐったりと力を失い、ヴィーナス様の膝の上で項垂れていた。
「ヴィーナス様、本当に限界です……この上映会、中学生編までで終わりにしませんか」
ヴィーナスは一瞬考えるそぶりをし、ゆっくりと手を伸ばし、俺の頭に指を添える。
「さっきまであんなに騒いでいたのに、随分とおとなしくなりましたね……?ほら、ご希望の“よしよし”してあげますからもっと体を私に預けてください」
ゆっくりと優しく、俺の頭を撫でる。撫でられるにつれて、徐々に力が抜けていく。違う、上映会を終わりに……だめだ気持ちいい。
「いや、なでられ——」
いつもの揶揄う声でなく静かで優しい声でささやく。
「今は……反抗しなくていいですよ。何もせず撫でられててください。」
……なんか、ヴィーナス様楽しそうにしてる?声も、いつもより優しい感じがする。
「まぁ、星くんの可愛いところも見れましたし『今回』の上映会は中学生編までにしてあげます。」
ヴィーナス様はそっと俺の頭から指を離す。
「……あっ」
「どうしました?」
クスッといつもの笑みを浮かべる。
———わかってるくせに……
ヴィーナス様は俺の心の声には反応せず語りかける。
「ほら、甘やかしタイムは終わりです。元気出たでしょ?次、行きますよ」
中学校の入学式の映像が映り出す
「この頃の、星くんもまだまだちっちゃいですね?」
「……こんなに背が低かったんですね。」
「確か、背が伸び始めるの中学3年生の頃だったと思いますよ?」
なんで、俺より俺のこと知ってるんだよ......俺のこと見てたからか……
「いつ、背が伸びたか覚えてないんですよね。高校で背が伸びなくなったのは覚えてるんですけど」
「みんな、そんなものだと思いますよ。映像が切り替わりましたよ」
それは……中学に入学してから間もない自分の姿だった。
「これは、学校終わりの星くんの家ですよね?」
家で黒歴史?帰宅後に……?
何だ……何を見せられる、眉をひそめ映像を見る。
「……俺の実家です」
「夕食も食べ終わって、お風呂も上がりました。あっ、ベッドに寝転がって布団を被りましたよ!」
「——待って、それって……」
俺は目を見開いたまま固まった。
「電気も消して布団に被っていると、何をしているかわかりませんね?カメラの視点を変えます。えい!」
リモコンのボタンを押すと……
———そこに映っていたのは、携帯でエッチなサイトを見ている自分の姿だった。
「最悪だ……」
もう、恥ずかしいレベルじゃない。
この黒歴史をこの女神に見られるなんて……
「そんな絶望的な顔をして、どうしたんです?こんなの思春期のあるあるじゃないですか?このくらいじゃそこまで弄りませんよ。まぁ人に見られたら恥ずかしいですけど」
違う、これで終わりじゃない……
後ろからヴィーナス様の声が聞こえてくる。
「あっ、サイトの画面が真っ赤になりました。お金の請求画面が映りましたね…」
そう、エッチなサイトを見てる途中に1クリック詐欺に引っかかって、金額請求の画面にとんだのだった。
何も喋ることができない。
「まぁ、これもよくあることじゃないですか…」
ヴィーナス様、なんか優しい。めっちゃフォローしてくれるじゃん。
「詐欺サイトなんか無視すればいいだけですもんね?星くん、もしかして……」
その言葉にビクッと震える。
目を瞑って当時のことを思い出す。
当時の俺は1クリック詐欺の存在を知らなかった。勝手に登録された会員登録を解除するために泣きそうになりながらいや、泣きながら退会メールを20件近く送った。もうそれは必死だった……
結果はメールを送ったことによってメールアドレスがばれ、さらに2分ごとに多額の請求メールが来た。
再び、映像を見る……
そこには、退会メール送り続けた結果、10分で100通近くの請求メールが来ていることを確認している自分の姿が映っていた。怖くなったのか携帯の電源を切り、布団から携帯を投げ捨て、布団に潜り込んで震えてる姿が流れる。
——ふと疑問に思う……
何で……こんな映像見せられてるんだっけ?後ろの女神は、なんかずっと震えてるし。
からかってくれた方がマシなのに、今回に限って喋らないの?ねぇ……喋ってよ……!?
しばらくすると、昔の俺は急に布団からでて携帯の電源をつけていた。メールを確認してさらに大量の請求メールを確認して絶望している。
「なんか、かわいそうになってきましたね。
次の黒歴史に行きますか?」
いや、もういじってくれ……居た堪れないよ……
エッチなサイトを見て1クリック詐欺に引っかかちゃたんですか、可愛いですねっていつものようにいじってくれよ……
ヴィーナス様がリモコンをもってボタンを押すが反応はしない。
「あれ?おかしいですね、次にいけません……まだ、映像が続いてますね?」
そうまだ、終わらないのである。
大量のメールが送られ続けることに、この時の俺は頭が真っ白になり部屋を出た。
眠っている父を起こし、請求メールが来ることを話したのであった。
父との当時の俺が話している音声が聞こえてくる。
———起きて、お父さん、起きて!!
眠たそうに瞼を擦る父
「なに?何かあったの?」
当時の俺は泣きそうになりながら
「なんか、いっぱいメールきたの……お金、払えって……」
父は、ため息をついた。
「エッチなサイトみたろ?」
一瞬、体をびっくとさせ映像の俺は見え見えの嘘をついていた。
「違うの、ゲームの攻略サイトを見てたら、なんか、いきなり……」
——もう映像を見れなかった、バレバレの嘘をつく当時の俺を、目を塞いでも声が聞こえてくる。
「わかった。まず明日、話し合うから携帯は置いて今日は寝なさい」
翌日、携帯ショップに連れて行かれて、フィルタリングをかけられた。
映像が終わるとずっとぷるぷるしていた女神、涙を滲ませ笑い出す。
「ぷっ、くっ…あはっ、あはははっ…ちょっ、くふっ……っふふはははは……や、やめて……お腹、いたっ……星くん、それ反則……」
ヴィーナス様の膝の上で唇を噛みしめ、ただただ縮こまることしかできなかった。
「ふふ..怖かったですね、星くん。
次、引っ掛かったら私に助けを求めてもいいですからね?慰めてあげますから」
まだ笑ってるよ、この女神!もういいだろ、笑いすぎだろ。
「もう引っかかりませんし、絶対あなたには助け求めませんよ」
ヴィーナス様が笑い終わった瞬間、雰囲気が少し変わったような気がした。でも、俺は膝の上で動けず、後ろは見えない、気のせい、だよな……?
「ねぇ星くん......?1つ聞いてもいいんですか?」
とても、嫌な予感がする。
「何ですか?」
「本当は、エッチなサイト見てたのに……何で、嘘をついたんですか……?」
耳元で囁くように言ってきた。
俺は答えることができなかった。
今まで血の気が引いてた白くなっていた顔が赤くなり、耳まで真っ赤になっているんじゃないかと思うぐらい熱い
ヴィーナス様は、俺に畳み掛けるように優しくじっくりお姉さんの口調で責めるように囁く。
「エッチなサイト見たんだよね……?」
ヴィーナス様、うるさい……
「ねぇ……星くんの『嘘つき癖』、もうこの頃から始まっていたの……?」
何も答えられないまま、下を向くしかなかった。
「星くん、嘘をついた事、お父さんに謝ろう?お姉さんが最初にお父さんに謝ってあげるから」
ヴィーナスの顔がさらに近づき、吐息が耳に触れる距離で静かに囁いた。
「エッチなサイトを見たのにバレバレの嘘をついてごめんなさい。ほら、星くん」
え、突然の言葉に動揺していると
「ほら、早くして……」
急かされ、ヴィーナスの言葉をそのまま言ってしまった。
「……え、エッチなサイト見てたのにバレバレの嘘をついてごめんなさい……」
ヴィーナスはいつもの口調に戻り頭を撫ではじめる。
「よく謝ることができました。大丈夫ですよ。お父さんもきっと許してくれると思いますよ。」
———何で今、俺謝ったの……?
「嘘をついたからです。そんなことより次の映像いくのであまり興奮しないでください。」
してない!と叫びたかったがそんな気力は残っていなかった。
星の爆弾は後、2つ……