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第9話 ヴィーナス様、それは罰ゲームじゃなくて拷問です

俺は目の前の光景に言葉を失った。


え、なんで、出口から出たのになんでまた映画館に、それもこの女神の目の前に……。


「なんでって、私が作ったドアなんですから行き先も私が決められるに決まっているじゃないですか。」


呆然とする俺に嬉しそうに言う。


「星くん、出し抜いたと思いましたか?勝ったと思いましたよね?



ざんねーん、私の勝ちですよ。



でも、必死にドアから出ようとする姿はかっこよかったですよ?最後なんか「やった、出られた。俺の勝ちだ……」なんて、漫画の主人公みたいなセリフじゃないですか。キュンキュンしちゃいましたよ」



敗北感で全身の力が抜ける。



……完全に負けた、最初から手の上で転がされてた。この女神を出し抜こうだなんて無理だったんだ。


「いえいえ、最後のは予想外でしたよ。驚きでした。でも逃げようとした星くんに罰ゲームを与えますね?」


何がくる……?次は鞭打ちとか、拷問の類か……


「……内容は?」


ヴィーナス様はにっこりと笑った。 


「そうですね、これからの上映会は私のお膝の上で見ましょうか?」


え、それ罰ゲームじゃ……頭に「?マーク」が浮かんでいると


ヴィーナス様は意地の悪い笑顔を浮かべていた。


「あ、すみません、これじゃあ罰ゲームじゃなくて星くんにとっては……ご褒美になってしまいますよね?」


……もう何回目だ、心を読まれてからかわれるの、それに、ご褒美なんか全然考えてないし、普通に罰ゲームだわ。


息を整えてヴィーナス様に言う。


「……ご褒美とか自己評価高いんじゃないですか?」


少しムッとした表情を浮かべるが、すぐにいつもの意地の悪い笑顔に戻る。


「まぁ、私のお膝の上で観るのは決定ですが罰ゲームとして少し弱かったですね」


ヴィーナス様は立ち上がって指をこちらにむける。


「えい!今……正直になる魔法かけました。

これから質問していくので正直に答えてください」


ヴィーナス様は可愛らしくウィンクしながら言った。


額から、じっとりと汗がにじむ。ウィンクしながらエグい魔法かけられた。……終わった、上映会よりもやばいじゃん。


「ははっ……まいったな、これ。もう詰んだよ……」


満面の笑みを浮かべる女神の姿がそこにあった。


「はい、王手です!投了してください♪」


なぜ、将棋!?



「うざっ、なんも上手くないし!」


「あらあら、言葉遣いがお下品になってますよ?」


「今も、心読んでいるんでしょ?ヴィーナス様、

どうせ、考えてることバレるなら取り繕っても意味ないじゃないですか。」


「確かに、そうですね。ちょっとかわいそうなので少し加減してあげてもいいですよ?」


「……え、良いんですか?ぜひお願いします」


やばい、俺チョロすぎるか?いやでも加減してもらわないと正直きつい……


「じゃあ、質問の数を3つに絞ってあげます!」


いや、3つって……十分多くない?全然加減してないじゃん。悪魔かよ……と不満を顔に出していると、


「……じゃあ加減しなくていいですね?」


……それはやばい!!すかさずに答える。


「3つにして頂けてとても嬉しいです!!」


「気を使わなくていいですよ……私、神じゃなくて悪魔だって思われてますし加減もできない女ですから……」 


ヴィーナス様はむくれながら、髪の毛の先をくるくると巻き、溜め息をつく。


いじけたよ……この女神。嘘だろ……?このままだと質問の数が5つになる。



それだけは嫌だ……



ごまをすってでもこの女神のいいところ言わないとスッと頭に浮かんだ言葉でヴィーナス様の良いところを挙げていく。


「いやいや、ヴィーナス様は最高の神様です。話していて楽しいですし、とっても可愛くて美しい女神様です」


俺の言葉を聞いたヴィーナス様が頬を両手で押さえ、笑顔で身体をくねくね揺らしながら答える。


「え〜〜そうですか?まぁ当たり前のことですけどぉ〜……正直者になった今の君からそんな言葉が聞けるなんて嬉しいですね。……星くん気づいてます?今の言葉は全部本当に思っている言葉なんですよ」 



さっきの態度はブラフ……かよ。



いやそれよりも、俺がそんな……やられた、いや嵌められた、なんか恥ずかしい事を言った気がする。


「いえ、嵌めていませんよ、勝手に褒めてくれたんじゃないですか。まあ、いいでしょう!質問の数3つにしてあげます!さらに今は気分がいいので最初の2つの質問は「はい」か「いいえ」でいいですよ!」


最後の質問は何聞かれるんだ。でも最初よりはまだ状況がマシか。


「ありがとうございます」


「じゃあ一つ目の質問です。デデン!罰ゲーム内容を聞いた時、嬉しかったですか?」


嘘はつけなくなってる、でも……このまま答えるのなんか癪だ、無言を貫け!正直に答えるおまじないと言っても答えなければ乗り越えられる。咄嗟に手で口を覆って、言葉が出ないようにする。


「はぁ、全く手のかかる子ですね?無駄なのがまだわからないんですか?」


ゆっくりと近づきながら、指先で額をちょんとつつく。


「そんなことしても、私には通用しませんよ?」


甘い声で囁くように言った。


「星くん、今の質問「はい」か「いいえ」で答えてください!無言は認めませんよ。おててはお膝の上に置いてください。」


くそ、手が、口が……勝手にうごく……


「は、はい」


「あらあら、そうですか、嬉しかったんですね?口では罰ゲーム以外のなにものでもないとか言っていたのに嬉しかったんですか、ふむふむ……」


もう死にたい、コロシテ……


「殺してあげません。ちゃんと生きてください!

さてどんどんいきますよ?2問目です。デデン私との生活は幸せですか?」


「……いや、それは上映会の内容と関係無いじゃないですか!」


「うるさいですね、「はい」か「いいえ」で答えてください」 


いや、まだあって時間もそんなに経ってないから幸せとかそんな事———ダメだ、また口が勝手に



「は……い」


「ふーん、口ではあんな貧乳女神とか悪態つくわりに私のと生活が幸せなんですね。全く、星くんはあまのじゃくな子ですね」


嫌だもう、帰りたい……


「どこに帰るんですか、お家はここですよ?星くん♡ さて、最後の質問です。さてこれから、お膝の上で上映会を再開しますが私のお膝の上で私にして欲しいことはありますか?」


なんだその質問……



最後になんて質問しやがるんだこの女神は、やばい……これが1番の黒歴史になる……!


「また、無言ですが……しょうがないですね。自分の欲に素直になる魔法をかけてあげますね!」


 パチンと音がなる


「はい、かけました!なんでも言っていいですよ!ご褒美あげちゃいます!」


あれ、意識がとお……く


魔法によって目がうつろうつろになる。


「ほら、早く!なんでもしてあげますよ?」


ナンデモ、シテクレル?


「サッキミタイニ、ヨシヨシ……シテホシイ」


これは、思いのほか効いてますね


「ふむふむ、ほかには?」


ホカニ、ホカニハ……ナニカ……アッ!


「ヒザマクラ……シテ…………ホシイ」


「ほぉ、いいですね!いいですよ!やってあげますとも、他にもあればもう一つくらいなら叶えてあげますよ?何か囁いて欲しい言葉とかありますか?」


……ホシイコトバ?


「スキッテ……イッテホシイ」


「ぐふ、ふふふ、そうですか……星君にそんな欲があったんですね!?これはこれは、全く私のこと好き過ぎじゃないですか。さて質問も終わりましたし早くこのおまじないを解いてあげないと」


パチンと再び音が鳴る


「星くーん、起きてください!」


「あれ、ヴィーナス様、おはようございます。もう朝ですか?」


「ありゃ、まだ寝ぼけてますね、ここは映画館で黒歴史上映会の途中ですよ」


映画館、黒歴史上映会?……黒歴史上映会!!


……夢じゃなかった、え、全部、現実?あの質問も夢じゃない、あれもこれも……


「起きてきましたね、全部、現実ですよ!ちゃんと星くんがやって欲しい事もやってあげますから、ほら、上映会の続きしますよ。早く膝の上に乗ってください」


ぽんぽんと太ももを叩きこちらにくるように催促する。


ダメだ、恥ずかしくて顔見れない、今は、素直に従ったほうが身のためか


「わかりました、今、行きマす」



力なく答え、ヴィーナスの元へ向かい、ヴィーナス様の膝の上に座った。


まだ、頭がぼーっとする、なんだろうこれ……?


「ヴィーナス様、その重くないデスか?」


「何、女の子みたいなこと言っているんですか?大丈夫ですよ。軽くなる魔法かけましたから!どうですか?私の膝の上は……」



「ト……テモ、安心します。」


あれ勝手に言葉がなんで?


「あっ、ごめんなさい……おまじないの効果が残ってますね。解除します!」


頭のなかの霧が完全に晴れる。


えっ、今のも本心!? 嘘だろ、おれ


「可愛いこと言ってましたね〜?」


涙目になりながら訴える



「……もう今日は良くないですか?もう散々な目に遭ってますよ、許してください。」


「そんな可愛い顔してもだめですよ?でも続きが気になるのでそこは譲れないですね、そもそも星くんが逃げるからこんなに長引いているんですよ?」


「俺のせいですか?」

「あなたのせいです!」


即答かよ!


優雅にポップコーンを食べ、ぐったりしている俺にささやく。


「ポップコーン食べさせてあげましょうか?」


「いいえ、もうお腹いっぱいです。」


――この映画、エンドロールが流れる日は来ないのかもしれない。


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