トイレから戻り席に腰をかける。
「戻ってきましたね!トイレはもう大丈夫ですか?席で漏らさないでくださいね、お漏らしくん笑」
俺はヴィーナス様の言葉に引き攣った笑顔を浮かべる。
「心配してくださってありがとうございます。……貧乳女神様」
ヴィーナス様はとびきりの笑顔で俺を見つめてくる。
「罵倒のレパートリー、少なくないですか?
ボキャブラリー不足ですよ……?私とあってからほとんど胸のことしかいじってないじゃないですか」
「それと、私の胸見過ぎですよ……?」
両手で胸を隠しながら俺に注意をしてくる。
「……ち、違いますからっ!」
慌てて手を振った
「くすっ、動揺しすぎです。まぁ、私は可愛いですからね、……ほら、存分に見ていいですよ?おっぱい星人さん」
両腕を広げ、まるで、抱きしめてあげるわよと言わんばかりに笑う。
……なにこの余裕。悔しすぎる。でも言われっぱなしじゃ終われない。
俺はフっと、馬鹿にするように笑った。
「まぁ、そんなちっちゃい胸なんかに興味はありませんが今から胸をガン見しますからね!」
「……えぇ、どうぞ?」
「恥ずかしくなって、手で隠さないでくださいよ?まあ、チェリー君に見られても恥ずかしくないとは思いますけど?」
ヴィーナス様を見つめる。
——やっぱり、なんだかんだいってめっちゃ綺麗だよな……ヴィーナス様も笑わないで!……今は胸を見るんだ!
視線を足から腰、そしてお腹へ視線を動かし肩の順に動かしていく。
あれ……え、えっと、真っ平らすぎてお腹と胸の境界線が……どこからが胸……?あんまり、服着込んでるわけじゃないのに……
なんか、女性の胸ってもっと膨らみがあって……
一瞬、ヴィーナス様の目がピクリと動いた。
「……なかなか失礼なこと思いましたね?」
……やばい、この感じ。あの女神のいじりタイムが始まる。
「星くんは、チェリー君ですから女の子の生の胸、見たことないですもんね、サイズとか判断できませんよね?」
……見たとしてもわかるかサイズなんか!
あ〜あ、始まったよ、イジリタイム……。
「漫画や映像でしか女性の胸を見ることしかできませんでしたもんね?そもそもどこからが貧乳かわかってるんですか?」
「そ……それくらいわかってますよっ!」
「……いいえ、わかってません、まず、星くんが見ていた漫画やアニメに出てくる巨乳って言われてる女の子達、あれは巨乳なんかじゃなく爆乳です。良いですか?……なので、私の胸は決して貧乳なんかじゃありません。」
……なんか、めっちゃ早口で言うじゃんこの女神、もしかして巨乳じゃないこと気にしてるのか?
「なので効きませーん!全然、知識も経験もない星くんの罵倒なんて全然、痛くも痒くもはありませんよ。まずは、女の子の胸でも見て出直してきてください!」
……嘘だ、ちょっと効いただろ、めっちゃ早口だったじゃん。でも、ヴィーナス様の言っていることも一理あるかもしれない。
俺には経験がない……チェリーだ。
このままだと経験がないことをいじられて押し負ける。早く経験を……いや、おっぱいを見ないと……
「わかりました、出直してくるので出口はどこにありますか?」
ヴィーナス様が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「正面スクリーンの右側に出口がありますよ、また、お相手してあげます♡経験を積んできてください。」
その余裕絶対いつか崩してやる。くそ……首を洗って待ってろよ。
言い合いが終わり、席を立ちスクリーンの右側の出口に向かう。
悔しい、あの女神!いつか、けちょんけちょんにしてやる。……まずは、おっぱいだ、あの女神がぺったんこであること証明する。
おっぱい……どうやっておっぱいをみよう
この世界って他の人のおっぱいが見れるところあるのか?
頭の中がおっぱいでいっぱいだった俺はドアの目の前に立つと……
——ハッと気がつく
あ……あれっ、このドアって出…ダメだ考えるな無心にな——
パチンっと音が響く
動けない……
くそっ……! もう少しだったのに……!
体だけが無理矢理、女神のいる方に向かせられる
「はーい星くん、戻ってきてくださいね〜途中までお胸のことで心の中がいっぱいで危なかったですよ。我に戻ってくれて助かりました」
笑顔でこちらに来るように手招きしている女神の姿が見える。
「私としたことがお喋りが楽しくて本来の目的を忘れてしまいました。ほら、上映会の続きしますよ」
……そりゃあ、心の中読まれてたらバレるよな鑑賞会から逃げ切れると思ったのに。
おっぱい様!
席に戻るんではやく動かせるように解除してください。
ヴィーナス様は座席にあるポップコーンを取りながらため息をつく。
「誰が、おっぱい様ですか、全く……」
再び、指で音を鳴らす。
——身体に自由が戻る。
今がチャンス!!!諦めるな星!!ドアはすぐ目の前だ、もう一度、指で音を鳴らすまでには時間がかかるはず……掴め、ドアノブを……!
もう、黒歴史はたくさんだ!!
なんとか、ドアノブを回し、転びながらドアの向こうの空間へ移動した。
「やった、出られた。俺の勝ちだ……」
女神を出し抜けた喜びと鑑賞会を回避したことを噛み締め、顔を上げると
———そこにいたのは、座席に座りながら満面の笑みでポップコーンをつまんで食べているあの女神の姿があった……
「おかえりなさい、星くん。……上映会、続けましょうか?」