「……次の映像が始まりましたね、これ私みたことないかもしれません、小学校6年生の頃の星くんの下校中ですね」
「……そうですね、」
下校中での黒歴史?なんかあったか?眉をひそめながら首をかしげた。
「なんだか、急いでますね、いきなり走り出しましたよ……」
これ、思い出した!
やばい、早く映像を止めないと急いで立ちあがろうとすると
パチンと指の音が鳴り響いた。
体が動かせない、声も出せない。……なんだこれ。
「どうしました?星くん、いきなり立ちあがろうとして何かよからぬことを考えていたみたいですけど……?」
やられた、どうにか、体を動かせないか必死に抵抗する。
「……そんなに慌てるとは、これは楽しそうなものが見れそうですね♪」
ヴィーナス様は固まって動けない俺から、映像の方に視線を戻していた。
「こんなに急いでいるってことは何か約束事を破って怒られるんでしょうか?」
映像に映る自分は何かに焦るように必死に坂を登って走っている。
やめてくれ、ほんとにそれは……
「相当みられたくないものなんですね。星くん、もう家に着きそうですよ?それにしてもこの映像の星くんは焦ってますね」
……もうやめましょうよ!!!!時間がもったいない!
そんなの見て、何になるんですか!
「暇つぶしです!……あと心の声がうるさいんで黙っててください。今いいところなんで」
……また、心の声がうるさいって、この女神めちゃくちゃだ。もういいやネタバレしてやるどうにでもなれ、この後———
「ここまできてネタバレしたらわかってますよね……?」
……はい、わかりました。もう無心になるしかなかった。
「家の前に来ましたね、家の中に何があるんでしょうか?あれ、……家に鍵がかかってますね、何度も鍵のかかったドアを開けようとして、あっ…これは、」
なんでさっきから、ずっと実況してるんだよ
やめてよ!
……もう最悪だ、終わった。
映像に映るのはずっと我慢していたものがあふれ出している姿だった。
この当時のことをよく覚えてる……開かない扉の前で必死にたえながら、我慢ができなくなってじわっと温かい感触が広がるあの感覚を……
何度も止めようとした。抗えなかった……一瞬止まっては出て、その繰り返し……足元には小さな泉ができていた。
映像に映るのは水たまりを作って泣いている自分と、遅れて出てきた母の姿だった。
「……ま、まさか漏らすとは、この時って小学校6年生ですよね……?ぷっ、ふは、いやぁ〜面白いものが見れましたよ、眼福です。」
人の漏らす姿見て、眼福とか絶対おかしい、この神様狂ってるよ
「狂ってませんよ、普通です!あ、そうでした、もうしゃべっていいですよ!」
パチンっと音が鳴る。
「最低ですよ、ヴィーナス様、このひとでなし」
「……まぁ、私、神ですし、それにこれはお仕置きだって言いましたよね星くん?」
……確かに、これはお仕置きで見てるんだった。
待って、こんなものがあといくつか出てくるのもうほんと耐えられない、もういっそ逃げ出すしか。
「逃すわけないじゃないですか、大人しくみててください」
……そうだ指を鳴らされたらまた動けなくなるのか、許さない、この……悪魔、変態女神、貧乳、ぺったんこ女神
「……恥ずかしくなるとすぐに悪口を言うんですから、ほーら、星くん、中学生編が始まるけどおトイレに行かなくていいでちゅか?漏らしたら大変でちゅよ……?」
……バカにしやがって、後に見てろよ。おい、にやにやした顔をするな!
「……じゃあトイレは行かないんですね。中学生編始めましょうか。」
もう怒った、いつまでも揶揄われてばかりの俺だと思うなよ。
「……いいですよ、もうここで漏らしてやりますから」
俺、本気ですよ?この座席、びちゃびちゃにしてやりますから、映像みたいな水たまりになりますよ……?と心の中で決意を固め真っ直ぐ見つめる。
「……はぁ、いいですよ?やれるものならやったらいいじゃないですか、大の大人が……お漏らしたなんて一生の黒歴史ですよ?」
……覚悟を決めろ、大人のプライドがなんだ!
「ほ、星くんに大人のプライドなんかあるんですか?……何黙ってるんですか、嘘ですよね?」
ヴィーナス様が何か言っている気がする。気にするな俺!
全身を脱力させ、ゆっくり目をつぶる。ゆっくりカウントダウンを数える
3……2…
「……わ、わかりました。揶揄いすぎましたから早くトイレに行って来てください」
「……それだけですか?謝罪の言葉は……?」
ヴィーナス様の屈辱そうな顔がとても気持ちいい!
「く、漏らそうとした人に謝るとかこんなの初めてですよ……!」
早く、謝らないと水溜まりだぞ!
「……ほーら、はーやーく!謝って!漏らしますよ!」
「……ちょっ、やめてください、ここで漏らすのは、ごめんなさい、からかい過ぎました。」
なんて情けないんだ、こんな歳になって女性の前で……でも情けないけど、今回は俺の勝ちだ!
いや、……これって勝ちなのか?まあ、いいか……前を向こう。
「……まあ、分かればいいですよ!
よく謝れましたね?……ヴィーナスちゃん?」
「ふ、ふふ……」
その一言に、空気が一変した。
一気に張り詰めた空気になり、この部屋の温度が下がった。
なんか……寒くない、なんで……?
ヴィーナス様、なんか笑ってるし……
「……え、今なにか言いました?」
「いいえ、なにも。ただ、今の私の謝罪、録音しておけばよかったのに、ふふ、そうありませんよ私が誰かに謝るなんて、いい記念になったでしょうに」
……うわ、やばい、絶対にキレてる!
しかも今まで見たことのないくらい怒って…いやめっちゃ笑顔だ。でも目が笑ってないし何あれ、怖い。
「ほら、早く行って来てください。ここを出て右にあるので」
そろそろ、膀胱も限界だし、ここは素直にトイレに行って、ヴィーナス様が落ち着くまでトイレに篭ろう。
急いでトイレに向かいトイレのドアノブに触れると
———パチンと離れたところから音が聞こえてくる。
あれ動けない、え、なんで……?
後ろから、ヴィーナスがゆっくり歩いてくる。
「どうしました?星く〜ん?トイレ行かないんですか〜〜」
声も出せない、また、やりやがった……
「早く扉、開けないんですか〜?……もしかして、さっきの映像の再現ですか?そんなサービスしなくても良いのに、いいですよトレイに行って……」
冷や汗が背筋を伝い、顔が引き攣る。
……やばい、汗が止まらない。さっき漏らそうとしたから限界だ……
「あれ、もしかして扉が開かないんですか……?
これは傑作ですね、どうぞ、ここは座席じゃないんで存分に漏らしてもらって!」
こんな、大人になって小6の再現するとか、さっきは女神もろとも巻き込めるからよかったけどこんなドアの前で女神に見られながら漏らすなんて……
「……いやぁ、初めてでしたよ、私が生きてきて、お漏らしをしようとする人に謝るなんて、
すごい屈辱でしたよ」
やっぱり怒ってた、……どうしよう、どうすれば……
「……声だけは出すことを許可してあげます」
「あっ、声が出る、……ヴィーナス様、流石にこれはシャレになってないですよ!早くトイレに」
「え、それだけですか、私が聞きたい言葉はそれじゃないですよ?」
膀胱が限界にきてる、身体が動かせないせいで膝が震えることもできない。
「……調子にのりました、ごめんなさい、許してください。トイレに行かせてください。」
「誠意が足りませんね。……もう一回やり直して」
悪魔だよ、この女神……ほんとに漏らしたら洒落にならないんだぞ。情けなくて泣きそう。
「女神様に対して無礼をはたらきました。
すみませんでした。どうか許してください」
「ぷふ、ふっ、ふふ、涙目になっちゃって、みっともないですよ星くん、ほら許してあげますから早く行ってきてください」
身体動くようになると、すぐにトイレに駆け込んだ。
なんとか間に合った、よかった。
扉の外から声が聞こえてくる。
「ほーしくん、間に合いましたか〜?
よかったですね、ちゃんとおトレイに行けてえらいですよ」
……この女神、絶対にころす、もう許さん
ドアの外から嬉しそうな声が聞こえて来る。
「きゃあー怖い、お漏らしさんにころされる」
そんなこと絶対おもってないだろ……!!
「ほら、上映会、再開するんで早く戻って来てくださいね!」
トイレの個室で、星は壁にもたれながら深く息をつく。
……今回は、ちょっと勝った……よな?
あのヴィーナス様を、ちゃんと謝らせた。嬉しいような、妙な敗北感があるような……。
「でもまあ、悪くないな」
ほんの少しだけ、胸がスッと……するわけないだろ……!!あんなに泣きそうになりながら漏らしそうな所見られて……あの女神…まじで——
扉の向こうから明るい声が響く。
「星く〜ん!おトイレ、終わりましたか〜?
漏らしちゃってたら、また上映会の編集に追加しておきますからね〜?」
……まだ、根に持ってるよ、あの女神!!
これからの地獄を思い浮かべ、覚悟を決めトイレのドアを開けた。
中学生編、地獄の第2ラウンドへ突入した……