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ブラッド×デッド 吸血鬼女王に眷属にされたオレがゾンビで溢れた世界を生き抜くには
ブラッド×デッド 吸血鬼女王に眷属にされたオレがゾンビで溢れた世界を生き抜くには
鎖久地イッキ
現代ファンタジー異能バトル
2025年04月16日
公開日
1.2万字
連載中
 一年前、ゾンビパニックにより世界は崩壊したーー吸血鬼の手によって  男子高校生の麻方逢魔はゾンビパニックから逃れるため、自分の通う高校に避難し生活を送っていた。 しかし、ついに食料が底を尽きてしまう。貧乏くじを引かされることが多い逢魔は食糧調達班に案の定抜擢、ゾンビで溢れるビルの外に送り出される。  そしてゾンビに襲われ、死に際に逢魔は吸血鬼を名乗る女と邂逅し噛み殺されるのだった。 次に目を覚ますとそこは見覚えのない部屋。抜け出すとゾンビの群れに襲われ逃げまどうことになる。  しかし、以前までと違い逢魔の身体能力は異常なまでに上昇していた。更に襲い来る変異種ゾンビに追い詰められ、異能の力に覚醒。敵を返り討ちにするのだった。  彼は吸血鬼化によるゾンビ(失敗作)ではなく眷属(成功作)となっていたのだ。  人外となってしまった逢魔はそれでもこの終わった世界を生き抜くーー

第1話 終わった世界

 世界が崩壊してから一年が経過していた。



「あ~、世界が終わったってのに嫌になるくらいの青空だな」


 高校3年生、麻方逢魔(あさがた おうま)は屋上の柵によりかかり空を見上げながらどうひとりごちた。ここは彼の通学する私立陽葵高校である。正確には高校だった…何故なら当に学校として機能していないからだ。だから逢魔は高校2年生から進級できていないとも言える。




「ずっといつか受験から逃げたいって思ってたけど…こんな風に受験がなくなるとは思わなかったぜ…」


 学校には彼の他に十数名の生徒と教師が生活していた。






 一年前、「吸血鬼を名乗るテロリスト集団が現れました」とTVで女性アナウンサーがそう読み上げた。SNSでは馬鹿馬鹿しい連中が出てたと冷笑の種になったことを逢魔は覚えている。かくいう彼も笑ったうちの一人だ。




 しかし、すぐに誰も笑える状況ではなくなった。吸血鬼を語る奴等がバイオテロを引き起こしたのだ。感染した人間は目が白く濁り肌は生気のない灰色になり知性が劣化する。…眉唾な話であったが、火を吐いたり身体から刃物を生やす等、超常の力を持った個体も存在する、という噂もあった。






 それだけならまだしも感染者達は人を襲い、襲われた被害者もまた感染し人を襲い始める悪循環が発生していた。




 さながらフィクションで登場するゾンビパニックの様相をなしており、感染者は誰からともなく「ゾンビ」と呼ばれるのに時間はかからなかった。有識者の中には差別的な文言は避けるべきだという意見も当初はあったが文明がなくなった今では「ゾンビ」の呼称で定着している。




 はじまりは東京であったが、パンデミックが拡がった今では逢魔が暮らす地方都市まで感染の波は来ている。ゾンビに襲われることを恐れた逢魔は自分の下宿する安アパートの薄い壁やドアでは身を守れないのでは思い高校へ避難したのだった。あれだけサボりたかった学校に自分から行くことになるとは皮肉なものである。




 それはともかくゾンビが少ないパンデミック開始当初から動いたため逢魔は無事に学校に到着することができ、一応の安全圏を確保することができたのだった。一年が経過した今では多数のゾンビが外を徘徊しているため学校1階の玄関、階段を机、ソファーや書類棚で塞ぎ外に出ることはできなくなっている。




「ん、もうこんな時間か…。はぁ…まったく学校は当に終わったってのに何で朝礼なんてやるんだか」


 ぼやきながら屋上の柵から離れるとビルの中へ戻る。階段を下りて3階の教室へ向かいドアをノックする。別に逢魔のクラスではないが学校の生存者は毎朝全員この教室に集まる規則が作られていた。




「おはようございます」


「おはよう、麻方くん。しかし、もう少し早く来たまえ。何事も30分前行動だよ」


 部屋の中で待っていたのは生活指導を担当する教諭である50代男性、新田剛だった。学校に避難した人間の中で彼が最も主張が強くリーダーを気取っている。


 ちなみに朝礼の開始時刻は8時30分、今の時刻は20分で逢魔が遅刻したわけではない。


「……………申し訳ございません」


(まだ始業時間じゃないだろうに…ていうかそもそも学校が機能してないんだから授業もねぇ…)


 内心思う所はあるのだが、ここで反発してもいいことはない。大人しく頭を下げる。何より逢魔は眠く朝から頑迷な教師と口論する気にもなれかった。






「さて、これで全員揃ったようだ。朝礼を始めよう」


 新田先生が手をパンと叩いて会議室を見回す。室内には逢魔の他に男女あわせて生徒12名と女性教師と教頭が着席していた。これが私立陽葵高校の生存者の全てだった。

 他の人に倣い急いで椅子に座る。




 1年の時からの友人である萩田詩織がチラと視線を送って他の人にバレないよう手を軽く振っていた。右隣に座っている部活の先輩の樫田省吾は気にするなと逢魔の背をぺしっと叩く。



 (…いい人達もいてくれて良かったよ、ホント)


 文明崩壊前でも後でもストレスの多い環境で逢魔が潰れずやってこれたのは彼等のおかげでもあった。新田は皆の前に立つとつらつらと訓示を述べている。いつもは大した中身のない話なので逢魔は右から左に流すだけなのだがこの日は違った。さすがに無視できない内容だったからだ。






「諸君に伝えなければならない話がある…避難後、我々の生命源であった食料が底を尽きそうだ」


「!?」


 教室の中でざわめきが起こる。食品メーカーであったためビルには大量の保存食があったのだ。それがなくなったのであれば一大事となる。






(冗談じゃないぞ…)


 いつかは尽きると思っていたが、ついにその日が来てしまった。食料が保管された倉庫の管理は新田が請け負っているため逢魔は食糧の残数を確認できる立場になかったため寝耳に水だ。これからどう生活するんだと不安がよぎる。


 しかし、彼が心配すべきなのはこれからではなく、今からの恐ろしい発言の方であった。




 「落ち着きたまえ、私に考えがある」


 新田が会議室のどよめきを収める。


 「学校から出て数百mの所にスーパーがあるだろう?そこから調達するんだ」


 確かに逢魔達の高校の近くにはスーパーマーケットが存在していた。学校帰りに寄り道をする者も珍しくなかった。だがそれは平時の話、ゾンビが徘徊する外を歩行して食料を得るなんて難易度が違う。




 「そこで我が校から食糧調達班を派遣することにした。今からそのメンバーを発表しよう!」


 つまり、危険を犯させる人間を選んだというわけだ。


 「……………」


 逢魔は自分が選ばれることを確信していた。こういった時に損な役回りが与えられるのは自分であると。新田に嫌われている自覚もあったからだ。




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