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残業で得た魔力で現実世界チート無双
残業で得た魔力で現実世界チート無双
さわじり
現代ファンタジースーパーヒーロー
2025年04月16日
公開日
1万字
連載中
 突然「魔力」が世界に解放され、人々の魔力量が「人生の苦しみ」に比例する時代に。社畜の独身平社員・黒瀬誠は、測定不能の魔力量を持つ「最強の社畜」として注目される。彼の魔力は、残業、理不尽、孤独、責任、あらゆるストレスで構築されたものだった──。  超一流ホワイト企業にスカウトされるも、「ストレスが足りないと魔力が落ちる」と危機感を抱き、自ら業務を背負い、ストレスを管理し始める黒瀬。その働きぶりが次第に会社、そして国家を動かしていく。  苦しみすら武器にする、「社畜チート無双」の物語。

第1話 社畜、覚醒

 終電を逃すことに、もう驚きはなかった。


「はー……またやっちまった」


 会社を出たのは、日付が変わる数分前。タイムカードには23時57分の刻印。ギリギリ今日に滑り込ませたのが、俺なりのささやかな抵抗だった。


 駅前のロータリーには、もうタクシーの長蛇の列。地方都市の深夜に動くバスなんてあるわけもなく、俺はおとなしく徒歩を選んだ。片道五十分、革靴でのナイトウォーキング。健康にはいい……たぶん。


 途中のうどん屋で、夕食を取ることにした。席につき、汁をひとくち飲むと、湯気で眼鏡が曇った。


『緊急速報です』


 店内のテレビから、いつもよりワントーン高い声が響いた。


『ただいま、世界的な異常現象が確認されました。国際物理学会および各国の研究機関によると──』


 俺はうどんをすする手を止める。


『今、この瞬間をもって、地球上に「魔力」と呼ばれる新たなエネルギーが満ち始めたとのことです』


 ……は?

 いやいやいや、魔力って。RPGかよ。


『世界は今、「魔力社会」への移行を迎えています』


 家でやらなきゃいけない仕事がまだ残っている。付き合ってられない。

 俺は黙って、うどんを一気にかき込んだ。人生に必要なのは、炭水化物と睡眠。それと、多少の諦めだ。



 ──それから半年。

 魔力は、本物だった。

 火を出すやつ、物を浮かせるやつ、浮かれて空を飛んで電線に引っかかって救急搬送されたやつ。

 最初は嘘だろ、って思ってた。だが気づけば、テレビもネットも魔力の話題ばかり。日常に、非日常が混ざり込んだ。


 ただ、魔力ってのはどうやら万人に与えられたものじゃないらしい。ある日突然目覚めるやつもいれば、何年経っても何も起きないやつもいるそうだ。


 で、俺はというと。

 何も起きない側だった。


「黒瀬くん、君に診断の依頼が来てるぞ」


 部長に呼び出されたのは、そんな平穏(?)な日々のある朝だった。


「えっ……俺が、ですか?」


「そう。うち、最近、魔法医療ベンチャーの会社と提携しただろ。そこの研究チームが、社員のデータを取りたいってさ。で、君がピックアップされた」


「え、なんで俺……」


「いや、君、ずっと激務続きだったじゃないか。極端なストレス環境にいる非覚醒者として、いいサンプルなんだと」


 ……なんか、すごく複雑な気分だ。

 まあ、断る理由もない。そういう話なら行ってみるか。


 後日、俺は指定された施設を訪れた。都内でも指折りの大型医療ラボ。「先端医療×魔法研究」とかいう、すでにフィクションみたいな看板が玄関にでかでかと掲げられてる。

 白衣の人たちが忙しなく歩き回るなか、案内されたのは無機質な部屋。中央に鎮座するのは、銀色の球体。なんでも、手をかざすだけで魔力量を測れるらしい。


「リラックスして、手を差し入れてくださいね」


 笑顔の看護師に言われたが、こっちはリラックスとは無縁の社畜人生を送ってきた。まあいい、ちゃちゃっと終わらせよう。

 球体に手を差し入れた、その瞬間だった。


 ──ボンッ!


「ッッあっっつぅ!?」


 急に装置が煙を吹いた。びっくりして手を引っ込める。


「緊急停止! 急いで!」


「記録は無事? ログを確認する!」


 白衣の研究者たちがバタバタと駆け込んでくる。え、何? 俺なんかした?


 目の前のモニターには、でかでかと表示された文字が一つ。


 【魔力量:測定不能】


 測定不能?

 ……あの、俺ってそんなにダメですか?


 そう思った瞬間、部屋の片隅で誰かがぽつりとつぶやいた。


「まさか、本当に実在するなんて……」

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